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管理機関プロメテウス広報室の事件簿  作者: 石動なつめ


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プロローグ


『諸君! 献血は、市民の義務である!』


 極彩色のネオンが眩しい夜、そんな台詞が高らかに、ビルの巨大モニターから流れている。この都市アイゼンゴッドのスローガンのようなものだ。

 話しているのは艶やかな長い黒髪と、眼鏡の向こうのルビーのような目、そして白い肌をした男だ。口からは小さく牙が見える。

 シラハはそれを見上げて「角度は良いな」と呟き、歩き出す。短い白髪がサラサラと風に揺れた。


 シラハ・ミズノセ、歳は十七歳。職業はアイゼンゴッドに本拠地を置く組織プロメテウスの広報室・室長補佐という肩書を持っている。

 短い白髪と紫色の目をした小柄な少女で、左目の下の泣きボクロが特徴的だ。

 整った顔立ちをしており、服装は襟元まできっちりとボタンで留められた黒シャツと、ジャケット、それからズボン。いわゆる仕事着である。


 そんなシラハは明るい通りから薄暗い路地へと入った。

 シラハがカツカツと靴音を立てながら歩いていると、タブレットの呼び出し音が鳴る。ポケットから取り出して見れば『スメラギ』という名前が表示されていた。

 フルネームはスメラギ・トーノ。シラハの上司で、先ほどの巨大モニターに流れていた声の主である。


『やあやあ、シラハ君! 元気かね? 元気だよね? 僕はとっても元気さ!』


 通話のボタンを押したとたん、そんな声が聞こえてきた。

 元気という言葉が相応しいような上司である。相変わらずだなと思いながら、シラハは口を開く。


「こちらも元気ですよ、スメラギ様」

『ああんもう、かったいなぁー。様はやめてよ、様はさ。僕とキミの仲じゃないか』

「どんな仲もこんな仲もありませんね」


 シラハがすっぱり答えると、スメラギが『つれない……』とぼやいた。


「それでスメラギ様。何の御用ですか?」

『ああ。広報(、、)へ新しいお仕事の依頼が来てね。こちらに戻って来られるかい?』

「承知しました。問題ありません。こちらは直ぐに片づけられますので」

『あ、何か立て込んでる?』

「いえ、それはまだ」

『そっか、気をつけてね。無茶はだめだよ? それじゃ僕はこっちで待ってるからね、愛しのシラハ君!』


 部下を心配するようなスメラギの言葉に、シラハは目を細くする。


「何が愛しのですか。本当は人間なんて大嫌いでしょうに」


 そしてそう言うと、タブレット越しに僅かに沈黙が生まれる。

 だが直ぐに、


『アハハ。……うん、そうだねぇ。さっすがシラハ君、僕の事をよく分かってくれている』


 と笑い声混じりの声が帰って来た。


『だけど僕は本当に、キミの事は割と好きだよ。人間のシラハ君』

「それはどうも。話し半分で受け取りますよ。吸血鬼のスメラギ様」

『本当なのに……。相変わらずつれないな~キミは。だがそこが良い! フフ、では、待っているよ!』


 それだけ言うと、通話が切れる。シラハはそれを見て、再び息を吐き、顔を上げた。

 紫色の目が映すのは、遠くに立つアイゼンゴッドのシンボルとも言える摩天楼『ゴッドタワー』だ。

 神の塔なんて実にふざけた名前を付けたあの高層ビルが、シラハが働いている場所。

 管理機関プロメテウス、この世界を管理する組織の本部だ。

 吸血鬼と人間が手を取り合って暮らしているように見せる(、、、)組織。

 けれど実際には――――。


「いたぞ、プロメテウスの狗だ!」


 怒鳴り声が聞こえ、シラハは振り返る。

 そこには黒色のスーツに身を包んだ男女がいた。彼らはそれぞれの手に銃を構えている。銃口はシラハに向けられていた。


「ああ、そちらでしたか、探す手間が省けました」


 涼しい顔でシラハがそう言うと、彼らの顔が歪む。


「吸血鬼に与する恥知らずが!」

「よくも弟達を突き出してくれたな!」


 激高する男達に向かってシラハは肩をすくめる。


「よくもとは、使い方が間違っていますね。法に背いたのはそちらでしょう。」

「あんなものが法であってたまるか! 人間をただ管理するためだけのものだろう!」

「そうですね。でも、それがあるから、この世界は成り立っている」


 淡々というシラハに男達はギリ、と歯ぎしりする。

 そして、


「その首、摩天楼のクソ吸血鬼共へ見せしめに、送りつけてやる!」


 シラハに向かって一斉に引き金を引いた。音と光が夜の街に響き渡る。

 しかし――――。


「遅い」


 それより早く、シラハは腰のホルスターから銃を抜き、彼らの一人の懐に潜り込む。そしてそのまま至近距離で引き金を引いた。


「ガッ!?」


 着弾した途端に、男の体に白い電流が走る。

 制圧用に支給されている装備――殺傷力を極力落とした代わりに、電流を閉じ込めた弾丸を放つ事の出来る『自動拳銃・雷電』だ。

 ややあって男は白目を剥いて気絶し、地面に倒れ込む。

 一瞬の出来事にシラハに銃口を向けていた人間達に動揺が走る。


「さて、後の予定が詰まっていますので。――――さっさと終わらせて貰います」


 そう言ってシラハは地面を蹴った。





 この世界では吸血鬼と人間が手を取り合って暮らしている。

 しかし実際には『手を取り合って』ではない。吸血鬼が上に立ち、大勢の人間達を管理しているのが、今の社会だ。

 その管理機関プロメテウスの広報室室長スメラギ・トーノの補佐官。

 それがシラハ・ミズノセの肩書だった。



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