祈り
『祈り』
僕は今日も墓参りに来ている。毎日来ている。僕は愛した義理の娘の死を悼んでいる。僕は何もしてあげられなかった。
妻が失踪してからと言うものの、娘は口数が減った。僕のせいだと思った。でも、僕は実の娘のようにしてきたつもりだ。
次第に明るさを取り戻し、僕は心の底から良かったと思った。
彼氏も出来て、娘は幸せそうだった。
娘は高校を卒業して大学に入学した。僕はまだOLになるまでは、過ごせそうだ。僕はそれまでは生きていこうと思った。保険もかけた。僕が死んでも、しばらくは暮らせるように。恋愛は過去のものとなっていく。歳を重ねるごとに、恋愛のチャンスは減っていく。
彼氏と上手く行っているのだろう。娘は。珍しく食事を食べている。いつもは文句をつけるのに。ちょっと生意気だが、外見が良すぎて参っている。確実に母親の血を引いているなと思った。きっとこの娘を産んだ元夫もいい顔をしていたに違いなかったのであろう。
2.
大学三年も娘は遊んでいて、まあ、今のうちに遊んでおくのも一興かと思い、ほったらかしにしといた。僕は恋愛を捨てた。ただ一人で暮らしていく。娘がここを出たら。陰で勉強したらしく、留年せずに、娘は大学を出た。
そして、OLになり、まだここにいるか一人暮らしをするか迷っているらしい。彼氏が出来ればここを出て、同棲でもすればいいさと言った。
そして、家賃がもったいないし、お父さんをほっては置けないから。と言いながらも、彼氏と同棲する事に決めたらしい。同じ会社に勤めているらしく、いずれは結婚式に招待するからちゃんと来てよと言っていた。
僕はアパートを変えた。より家賃の安いアパートに住む事にした。携帯番号は変えずにいた。このアパートを去った。
結婚式に出られるように有給は取っておいている。娘の晴れ姿をいつか見たいな。それが今の僕の心の支えになっている。
3
そして、娘は結婚した。披露宴の式は豪華で、僕も軽めにスピーチをした。そして娘の友人たちやOLの同僚達も来て、娘の夫も頼りがいがありそうな風格があった。僕は、僕たち夫婦のようにならないで欲しいと願いながら、式を見守った。いろんな行事があり、そして、新郎新婦は、これからは二人で人生を一緒に歩んでいくのだなと思うと、僕はあの小さかった頃の娘を思い出した。僕に心を開いた瞬間。そして、食事を珍しく完食した事。大学入試で燃えていた頃。そして、アパートを出て行った瞬間。それを一瞬のうちで思い出せた。
そして、式は終わり、そして皆から祝福される娘を見て、この瞬間のために生きてきたんだと思った。
僕は今までの通り、淋しい毎日が待っていた。僕はそれでも悔いはない。写真を撮った。OLになる前の記念写真で。僕はその写真を机のついたてに置き、そして、いつものように会社で物足りない仕事をしていた。でも、仕事は仕事と割り切って会社では仕事をきっちりとしていた。
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しかし、幸せは長続きしないものだった。娘夫婦は交通事故で二人とも亡くなった。警察の話によると即死だったらしい。僕はただ呆然としていた。やっと僕の役割を終えたと思ったのに。そして、通夜と葬儀をした。そして、僕は墓を買い、そこで娘夫婦の眠る場所に毎日お参りに行っている。僕が歩いて10分ぐらいに着く場所の墓地を買った。そして、毎日雨が降っても雪がつもっても、毎日参拝した。どうしてこんな事になったのか。僕はいつか死ぬ時、娘のあの笑顔が思い出せるといいな。
そして定年退職まで勤め上げる気だ。一人で生きていてもいいし、また再婚してみるのも悪くないかなって思っていた。
せめて、僕が死んで、娘夫婦が生きた方がよっぽど良かった。結婚式。二人は永遠の愛を誓った。天国でも二人で一緒に楽しく生きているのだろうか。そう思うと少しだけ気が晴れる。僕はそう思いながら余生を送ろう。僕はずっと二人がこの世から消えても、きっとまた生まれ変わり、様々な恋をして、また出逢うのだろう。そう思って、僕は二人に祈りを捧げた。