弟子とのデートのちハプニング
「あっ、オシショウっ!」
ギルドから出ると、付近で待っていたミーアがこちらを見て駆け寄ってきた。
「ん、待たせたな。ほれ、今回の報酬だ」
俺は報酬が入った袋をミーアに渡した。
「はわわわわわわっ…こ……こんなにたくさんのお金っ…」
「…これだけの報酬は初めてなのか?」
「は…はい」
「…普通にミーアだけでも、一本角鹿ぐらいなんとか出来るだろ?。それに他の事だって」
「それはそうなんですが…そこまで報酬がよくないらしくて…」
「ほう…なるほど…」
…うん、やっぱりちょろまかされたりしてたみたいだな…
現在、ミーアがどの程度までできるのかは正直わかってない部分もあるが、この子たちは総じてそれなりの知識と技術を扱うことができる。
出来る事、出来ない事があるとはいえ、これぐらいの金銭を稼ぐなんざ余裕なはずだ。
…やっぱり潰しておくべきだったか…
…いや、なんでもかんでも潰しては教育に悪いな…
「そうだっオシショウ!。でッ!……ぁ///」
「…で?」
「いやそのっ…///。あっえーとっ…おっ…お買い物に行きましょうっ!!///」
「ん…買い物か…」
ちょうど金も入ってきたし…あの家の物も古いからな…
ここらで幾つか新しくするのも悪くはない。
…しかし、買い物をするだけだってのになんで顔を赤くしてるんだ…ミーアは?
「…」
「…だ……だめで…しょうか…?///」
「ん…いや、だめじゃないよ」
「ほっほんとですか!?///」
「あぁ、ほんとおぅ!?」
いきなりミーアに、ものすごい勢いで抱き抱えられ、変な声が出る俺。
何事っ!?
「ちょっ…みっ…ミーア!?」
「時間は有限ですよっオシショウ!!」
「いやわかってっ…ちょっはなっ!?」
「レッツゴォぉぉおおおお!!」
ミーアは俺の話を聞かず、一気に駆け出す。
いい歳なんだから、少しは落ちついてくれぇっ!!。
◇◇◇◇◇
「オっシショウと買い物〜、オッシショウと買い物〜」
「ご機嫌だな…」
「そりゃぁ…えへへへへっ///」
うん、可愛い。
「…で、何買うんだよ?」
「えーと…とりあえずお皿とかかなぁ…」
「…やっぱり、もう古すぎて使い物にならないか?」
「んー…それは…あっ、乱暴に扱ってるとかじゃないですよっ!」
「…小さい頃ならまだしも、今も乱暴に扱ってるとは思わないよ……かなり時間は経ってるだろうから、さすがにいたんだと思っただけだ」
「…うん……お金がなかったのもあるけど…なんだか捨てるに捨てれなくて…」
「…」
とりあえず、金が満足に貰えてなかったことは置いておいて…
…ミーア…ミーアを含め、弟子たちは基本戦争孤児だからな…
愛着が人一倍強いんだろう…
そこら辺は考慮できてなかったな…
「…まぁ…限度はあるが、必ずしも捨てる必要はないんじゃないか?」
「…そうかな?」
「そうだよ。大切なものっていうのは、無理に捨てる必要なんてない…まぁ、いつまでも持ってるのは違うと思うけどな」
「うん…」
「…しかし、ミーアでこれか…他の弟子たちも同じなのかね……そういえば、今でも連絡はとったりしてるのか?」
「全員じゃないけど…それなりにかなぁ」
「…まぁ…そうか…」
俺は少し残念な気持ちになる。
仕方がないとはいえ、弟子達はいつまでも仲良くしていてもらいたいと思っている。
しかし、それぞれの人生があるからな……
まぁ、師匠のエゴってやつか…
「あっ、でも。オシショウがいるって話をすれば、みんな飛んで帰ってくるかもっ!」
「…さすがにそうはいかんだろ…」
「いやいや、オシショウがいるんだから飛んで帰ってくるよ〜」
…それならそれで嬉しいが…
「……いや、それは無しだな」
「…ど…どうして?」
「…もし…もし仮にだ…皆が飛んで帰ってきてくれるのは正直嬉しいが……本来、俺は死んだ存在だからな……いつまでも死人に囚われてほしくない」
「……オシショウ…」
「……まぁ、とはいえ…あったらあったで構わないんだけど……」
「…オシショウって昔から素直じゃないですよね〜」
「…ほっとけ……ん…ここか?」
ミーアが足を止めると、綺麗な外装の店に到着した。
「うんっ!。ここのお姉さんの作る食器はすごい綺麗なのっ!」
「……高いんじゃないか?」
「うーんっ…そこは…物によるかなぁ…」
「……んー…まぁ、その時はその時か…とりあえず、入るか」
「うんっ」
ミーアが扉を開ける。
“チリンチリン…”
扉を開ければ鈴の音がなる。
店の中も綺麗に整えられており、何より台に並べられた数々の食器が一際目立っていた。
「ほぅ…」
思わず俺は声を漏らした。
綺麗な物には正直興味はないんだが、職人としての誇りというべきか…
並べられた食器類からは、職人の本気がうかがえた。
「ねっ、すごいでしょ!」
「…あぁ、正直予想以上だ」
「ここに並んでる食器はね〜、全部ここのお姉さんがっ」
「あら、ミーアちゃん?」
「あっ、お姉さんっ!」
「…」
声がした方を向くと、そこには緑色のエプロンを身につけた茶色の髪の女性がいた。
「今日はどうしたのかな?。あら、そのスライムは…」
「えへへ〜、オシショウって言うんだよ〜」
「…」
とりあえず、俺は小さく頭を下げた。
「あらあら、お利口なスライムさんね。初めまして、私はガーナ。この店の店主です」
ニコッと俺に微笑みかけるガーナさんとやら。
…いや、フレンドリーすぎない?
仮にもモンスターなんだけど?
…俺の気にしすぎ?
「今日はねっ、食器を買いに来たんだよっ!」
「あらっ、ようやくお金が貯まったの?」
「うんっ、オシショウが頑張ってくれたんだよっ」
「あらあら、それはそれは。オシショウちゃんはいい子なんですね」
「っ!?」
何故か頭を撫でられる俺っ。
「あっ、オシショウっ。デレデレしちゃだめ!!」
いや、デレてないデレてないっ。
冤罪冤罪っ。
「ふふっ、オシショウちゃんも罪なスライムですねっ」
「……」
…正直反応に困る言い方だな…
「それじゃ、特別に今回はサービスしちゃおっかな」
「ほんと!?」
「本当本当っ、ちょっと古いものになっちゃうかもだけど…それでも質のいい食器類を見繕ってあげるねっ」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑顔を浮かべるミーア。
…正直、意外だ…
元から人懐っこいミーアだがここまで懐いているとは…
…
…俺が死んでから、かなりお世話になった人ってことか…
…てことは、この人は俺にとっても大恩人になるわけか…
「あっ、オシショウ。ガーナさんはね〜、時々食器をくれる人なんだよ〜」
俺が気にしているのを察してか、ミーアが説明してくれた。
「古くなったのですけどね…こっちとしても、在庫処分にはお金がかかるし……それにミーアちゃんは物を大切にしてくれるから」
「えへへへ〜」
…うん、やっぱりいい人だったな。
しかも、ミーアがかなりお世話になっているようだ…
…
…これは…俺もちゃんと挨拶した方が…
“チリンチリンっ…“
「邪魔するぜい!」
ドタドタと乱暴に扉を開けて入ってきたチンピラたち。
「貴方達…また来たんですね」
「またって言い方はないだろ〜?。いいかげん首を縦に振ってくれよ〜」
「…そのお話はお断りしたはずです。縦に振ることもあり得ません」
「…こっちが下手に出てればいい気になりやがって…」
いやいや、よくわかんねーけど態度が変わるの早すぎだろ…
いくら打算的な目的があったとしても、もう少し我慢しろよ我慢…
「そっちにだって悪い話じゃねーだろ?」
「…確かに…ですが答えは変わりません。お引き取りを」
「テメェ、女如きが兄貴の誘いを断るとかしてんじゃねーよっ」
背後にいたガリガリハゲが、ガーナさんに近寄ると睨みつけてきた。
「女は黙って言うことを聞いてればいいんだよっ」
「あり得ませんと何度も申し上げたはずです。それとも記憶できない頭なのですか?」
…ほぉ…
おとなしい女性かと思ったが…なかなかに肝が据わってるな。
「んだとぉ〜!黙ってりゃいい気になりやがって!!」
「ガーナさん!?」
ガリガリハゲはガーナさんを殴ろうとする。
…やれやれ…
話し合いで解決するなら手は出さないつもりだったんだがな…
「いい気にっんぉっ!?…あガァぁぁ!?」
ガリガリハゲの腕を掴めば、一気に全体から圧迫する。
この程度の相手には十分するすぎる仕置きだな。
「…やれやれ…穏便に済ますってやり方を知らないのかね…最近のバカは」
「す…スライムがっ…しゃ…しゃべっ?」
「一度だけ言う…さっさと出ていけ。そうすれば、これ以上手を出さない」
「な…何をっ」
“ゴギィっ…!”
「んがぁぁぁぁぁぁああ!?」
「っ!?」
「いいか、これはお願いじゃない。命令だ…さっさと出ていけ…出なければ…全員こいつと同じようにするぞ?」
そういえば、腕を折ったチンピラを見せつけるように男達の元に投げつける。
「ぐっ…ひっ…引くぞお前らっ」
部が悪いと察したのか、リーダー格の男が他のメンバーを連れて店を出て行った。
…やれやれ…
初めからこちらの事も察して、大人の対応をしてくれるんならいんだけどな…
「…ガーナさんっ、怪我はないですかっ?」
「だ…大丈夫っ、オシショウちゃんが止めてくれたからっ…」
こちらを不安そうに、戸惑った表情で見てくるガーナさん。
…そりゃ、話せるスライムとか怖いよな…
「…あー…まぁその…こう言う感じなんだ…うん」
「…オシショウ…それじゃ、わかんないと思う…」
「…仕方ないだろ…説明が難しいんだ…納得してもらえるとも思ってないし…」
「…いえ…ごめんなさい。助けてもらったのに…」
「…気にしないでいい…正直、事情は不明だから傍観するつもりだったんだが……さすがに暴力沙汰になるのは問題だからな…悪い、手が出た」
「…いえ…本当にありがとうございます…正直、怖くて…」
「…ミーア、とりあえずガーナさんを椅子に」
「はっはいっ」
俺とミーアはガーナさんを支えれば、近くにあった椅子に座らせる。
やれやれ…
何処かで“女は度胸”だと聞いた覚えがあるが…
足腰が立たなくなるほど強がるのもどうかと思うな…
まぁ悪くはないと思うが…