とりあえず報告だ
“ガヤガヤガヤガヤ…”
公爵家を離れ、場所は変わってギルド内。
午前中より、たくさんの人間で溢れていた。
さっき来た時は、ミーアへの態度が気に入らなくて見る事はしていなかったが…
冒険者だけでなく、商人やどこぞのお偉いな方も見える。
…
…ふむ…ギルドってのは、多種多様な人間が行き来してるんだな…
…まぁでも、よく考えればそうか。
モンスターの討伐や、資材の確保、その他…
そんな格好の場に来ないやつはいないか…
…ん…おっといけねっ。
俺は俺の用事を済まさねーと…
さて…あの生意気な受付嬢はっ…と……おっ、いたいたっ。
「よぉ」
「ひっ…!?」
俺は受付のカウンターによじ登り、ミーアをいじめていた生意気な受付嬢に話しかける。
うん、いい感じでビビってるな。
…少しビビりすぎな気もするが…
「クエストの報告をしたいんだが、いいか?」
「はっはいっ!!」
ビクッ!と震えた後、甲高い大きな声で返事をしてきた。
…いやいや、怯えすぎだろ…別に殺気なんざ出していないんだがな…
それに周りも周りだ。
午前中のやりとりは周知の事実と言っても、冒険者も職員もこっちを見過ぎだし…
さっきまでは、スライム一匹だけで行動してるってのに全く気にも留めてなかったくせに…
まぁ、移動しやすかったがな。
しかし、危機感が少なすぎやしないかね…
俺が本気なら、“このギルドを無に返す”ことなんざ簡単だってのに…
「…はぁ…まぁ……何でもいいか……とりあえず、クエスト達成だ。これが証明書」
メイドさんから預かったクエスト完了の書類を渡した。
ちなみにどこに隠してたのかは秘密だ。
「た…確かにっ…で…ではこれで以来達成です…こちらが、依頼主からいただいていた報酬になります…」
受付嬢が出した袋の中身を見る。
うん、確かに報酬金がくがきちんと入っているな。
「確かに…ふぅ…穏便に済んでよかったよ」
「…え…」
「いや、もし騙しでもしようもんなら……この辺一体を更地に変えてたからな」
「っ……ご…ご冗談をっ……」
「あぁ、冗談で終わって本当によかったよ」
「……は…ははっ…」
受付嬢の泣き出しそうな表情での渇いた笑い。
所々、それなりの殺気を込めたからな…
俺が本気で言ってるとわかってもらえたようだ。
…
…さて、脅しはこれくらいにして後は…あっ、そうだそうだ。
「いけね、忘れるところだった…」
「…え…?」
「ほい」
俺が差し出した書類を前に首を傾げながらゆっくりと受け取る受付嬢。
どこに隠してたのかは本当に秘密だ。
「…これは………えッ!?」
受付嬢は首を傾げながら受け取り、書類に書かれた内容を読み始め…
そして、驚愕の表情に染まる。
…まぁ、それも仕方ないだろうな。
「とりあえず詳しい理由は省くが…そこに書いてある通りだ」
「…っ…あ…えっ…えぇっ!?」
信じられないと目を見開いてこちらと書類の凝視を繰り返す。
周りも、そんな受付嬢の姿に気になってか、こちらをさらに注視してきた。
いやいや、みんなしてこっち見るんじゃねーよ気持ち悪いだろうがっ…
「…んじゃ、伝える事は伝えたからよ」
「いやちょっ!?おっお待ちください!?これは一体っ!?」
午前中の態度とは打って変わった対応。
内容が内容だっただけに、態度を改めたんだろうな…さすが、というべきか。
「そこに書いてある通りだ。まぁ、次クエストを受けるときは…“公爵家専属の冒険者”であるって事を念頭に置いといてくれよ」
「…っ…」
「…おいおい、そんな顔すんなよ。たかが、貴族の後ろ盾が付いただけだろ?」
「…それは…」
「…別に今朝の対応についてとやかく言うつもりはないさ。既にその事に付いては、お話ししたつもりだからな……それとも………“ホカニナニカ、キニナルコトガアルノカ?”」
「ッ!?」
受付嬢は涙を流しながら全力で首を振っている。
…その様子から、絶対何かあるのはわかるが…
まぁ、多少は飴も必要だからな…そこは保留にしといてやるよ。
…しかし、貴族の看板ってやつはすごいな…
あの長年やってたであろう生意気な態度を一瞬で引っ込めさせるんだし……
「…とりあえず、この話はここまでにしといてやるよ…じゃぁな」
そして、俺はその場を後にした。
さて、報酬もきちんともらったわけだし…ミーアの元に帰るか…