問題ありな公爵令嬢
目的のモンスターの肉を用意した俺たちは、依頼主である公爵令嬢のもとに訪れていた。
「…」
「…はわわわぁぁ…」
「…でかいな」
目の前の屋敷の大きさを前にし、唖然となる俺達…
特にミーアは俺より驚いてる。
まぁ…あの家は小さいからな…
三階もありそうな建物を前にすれば驚きもするか…
てか、豪華だな…さすが公爵令嬢…
「…とりあえず、さっさと渡して帰るとするか…行くぞ、ミーア」
「えっ…はッはい!オシショウ!」
荷車を引っ張りながら屋敷近くまで移動する。
もちろん、荷車を引いてくれは俺だ。
体の一部を伸ばして引っ掛ければ、後は俺の力で引けるからな…
そもそも、ミーアに引かすなんてありえないからな…
ゆっくりと屋敷に近づいていき、扉前に到着したタイミングで扉が開いた。
…こっちが近寄るのを窓からでも見てたのかね…
「ようこそ、マトリック家へ。如何な御用件でしょうか?」
現れたのは、スラっと背の高い、黒髪の美人なメイドさんだった。
「あっ…あのッ…私達、ギルドのクエストを受けた者でッ…」
ド緊張しながらも話をするミーア…
いやいや、緊張しすぎだろ…
「まぁ…ギルドからの……お嬢様が出したクエストを受けてくださった方でよろしいでしょうか?」
「はっはいッ!…」
「それはありがとうございます。まさか受けてくださる方がいらっしゃるとは…てっきりお蔵入り扱いになっているかと…」
はい、大当たりです。
多分俺たちが受けなきゃ、お蔵入り確定だったろうな…
「…あー……そのっ…ごめんなさい…」
申し訳なさそうに謝るミーア。
おいおい…ミーアが悪いわけじゃないだろうに…
「謝らないでください。内容が内容なだけに放置されるのも覚悟の上でしたので…受けてくださっただけでも、ありがたいのです」
そんなミーアに対して、優しく話しかけるメイドの女性。
正直ありがたい…
ミーアは気にしすぎるところがあるからな。
…自分のことで悩むならまだいいんだが…
今回みたいに自分は関係ないのに気にしちまうからなぁ…やれやれ…
「ぃ…いえっそんな…///…別に感謝される事はっ…///」
「…」
「あぅっ…!?…お…オシショウ?」
このままだと話が進まなさそうだったから、俺はアタフタするミーアの背中を叩いた。
「あら…そちらのスライムは…」
「あっ!オシショウは悪いスライムじゃないんですッ!。私のぱっ…パートナー…みたいなものでっ…///」
「…」
とりあえず喋る事はせず、小さく頭を下げた。
「あらあら…これはご丁寧に」
こちらの動作から、挨拶をしてると見抜いたメイドは同じように頭を下げた。
…ふむ…珍しいな…
モンスターである俺に対して頭を下げるとは…
礼には礼をもって返すというわけかね?
「ぁ…あの…怖くありませんから…ね?」
「ふふっ…大丈夫ですよ。魔物使いというクラスが存在するのは知ってますから」
ニコッと笑みを浮かべるメイドさん。
スライムと一緒にいることからクラスを予想したらしいな…
まぁ…知っていたとしても、受け入れるかは別だと思うんだが…
これが器がでかいというやつか。
「…あら、もう狩ってきてくださったんですね」
「はっはいッ!」
…ミーア…
とりあえず落ち着こうや…
「ありがとうございます。ですが、かなりの量ですね…食べ切れるかしら…」
…ん?
食べ切れる?
…一度に全部使うつもりなのか?
「…とりあえず、凍らせましょう。腐ってしまってはもったいありませんので…」
…腐る?
…はて…?
確かに肉であるいじょう、腐りはするが…
そんなすぐには腐らないはずなんだが…
「…ぁ…あのぅ?」
「はい、何でしょうか?」
「…く…腐るってどういう事でしょうか?。…確かに早めの方が美味しいですけど…このぐらいの量なら凍らせなくても…」
どうやら、ミーアも疑問に思ったらしい。
「…何をおっしゃってるんです?。モンスターの肉は“劣化しやすく、味も悪い”じゃないですか…」
「え…それは、何も対処しなければそうですが……しっかり対処をしてますから不味いはずないんですが……それに、きちんと保管に適した環境に置いておけば半月ぐらいは持つかと…」
「…え?…ぉ…お待ちをっ…貴女は…モンスターの肉を腐らせず…美味しく食べることができる…そうおっしゃるんですか?」
「えっ?…はい…」
戸惑いながらも首を縦に振るミーア。
逆に驚いた表情を浮かべるメイド。
…何をそんなに驚いてるんだ。
モンスターの肉を腐らせずに、味も本来のまま保管するなんざ簡単だろうに。
“…ガチャ”
メイドが口を開こうとした瞬間、屋敷の扉が開いた。
「…リーン…お客様?」
「ぁぁっお嬢様っ、出てきてしまわれたのですかっ?」
慌てた様子でメイドさんは現れたのは女の子に駆け寄った。
見た目からして、14歳ぐらいの女の子…
綺麗な顔立ちと服を見れば、公爵令嬢であることが窺えるが…
1つ気になることがある。
「お客様でしたら、私もご挨拶しませんと」
「…それはそうかもしれませんが……お嬢様はあまり体調がよろしくは…」
…ふむ…何やら問題を抱えてるようだな…
…
…はぁぁぁ…
「…お客様への対応は私が行いますので…お嬢様は安静に…」
「…わかりました……ですが、一言…」
「…簡潔にお願いいたします…」
「ありがとう、リーン……初めまして、私はマリベル・ローランハートです…たいしたご挨拶ができずに申し訳ございません」
「はっ…はじめましてっ……冒険者のミーアといいますっ…そ…それでこっちはオシショウですっ」
ミーアに紹介され、俺も小さく頭を下げた。
「あら…冒険者さんでしたんですね…申し訳ございません…変なクエストを出してしまいまして…」
「ぃ…いえっ……気にしないでくださいっ……そ…それより、あまり大丈夫そうには見えませんし…早くお休みになられたほうがぁ…」
ミーアが心配になるのも無理はない。
マリベル嬢は明らかに痩せていた。
それもかなり…
さらには結構も良くなさそうだ。
こんな見た目の人が出て来れば心配しない方がおかしい。
「…お嬢様…ミーアさんのおっしゃる通り、早くお休みに…」
「…わかりました……ところで、リーン…先ほどから美味しそうな匂いが漂ってますが…何か作っているのですか?」
「えっ、匂いですか?…いえ、私は何も…それよりお嬢様、その匂いに対して気持ち悪くなどは…」
「…いえ、全くないのです…」
なるほど。
「…“魔獣食の呪い”か…厄介なものつけられてるな…」
「「…えっ?」」
俺の声に反応し、マリベル嬢とメイドさんはあたりを見回した。
どうやら、他に人がいると思ったんだろう…
しかし…
「…あー…下だ、下」
「し…」
「……た…?」
周りを見渡していた2人が、ゆっくり下を向けば、俺と目があった。
「どうも、はじめまして」
「…」
「…」
「…?」
「…しゃ………」
「…しゃ?」
「しゃべっっったぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁあ!!!???」
2人は驚きのあまり大きな声をだす。
どうやら、俺が喋ったのを見て驚いたみたいだ…
…そうかぁ…
本来スライムは喋らないよなぁ…うん…