The Fool
女視点
あぁ…まだドキドキしてる…私……やっぱ運命の人なんだ!
「ふぅーー」
深呼吸をして高揚を誤魔化そうとする彼女の手元にはタロットカードが積まれている。占い師のものだ。
そういや大丈夫かなあの占い師。急に何か憑依したのかと思っちゃった。
隠れ筋肉の荷物はもちろんのこと、占い師のなんやかんやも見張らないといけない。荷物を漁ることはもちろんしないが机に置いてあるものを触るくらいは許されるだろう。店番をしてやっているのだ、それくらいは構わないはず。自分にそう言い聞かせて彼女はやり方も分からないタロットカードを適当に混ぜ1枚めくった。隠れ筋肉と自分の未来に想いを馳せながら。
「The Fool…えっ」馬鹿ってこと?
脳内フリーズしてしまったが、ひとまず意味を検索しようと、鞄からスマホを取り出そうとした瞬間、ドサッと何者かが目の前に座った気配がした。
「お姉さん、占ってよ」
ああ、タロット様のおっしゃる通り私は馬鹿です。占い師と筋肉の荷物を死守すべく、占い師側の椅子に堂々と座っておりました。
「ごめんなさい、私、占い師じゃないんです」
「え?でも、今なんか占ってたよね?」
「違うんです、それはつい出来心で」
「出来心で?」
「本物の占い師さんが急に倒れちゃって」
「えーっと、、乗っ取り?」
「違います!私もお客さんなんですけど、店番を任されてて。もうすぐ通りすがりの人が警備員さんを連れて来てくれるって!ほんとなんです!」
何故か占い師の乗っ取りを疑われて、前のめりに机に手をついて熱弁していると、何故か手を重ねられた。
「え?」
「まあ、いいや。俺、占いとか興味ないし」
「では何故…」
「お姉さん可愛いからお話したかっただけ」
「この手は…」
「ん?」
手を引き抜こうとすると、今度は手を握られた。
「あの、離してください」
「飲みに行こうよ。連絡先教えて」
「やっ、離して」
チャラチャラピーピーうるさい男、略してチャラピーを睨むも、涙目のためか効果がない。
普段のナンパなら無言で会釈だけして早歩きで逃げていたけど、私は荷物番としてここを動く訳にはいかないのだ。
「一杯だけ。ねっ」
「行かない。離して」
「じゃ、連絡先だけ教えて」
「うぅ~」
早く戻ってきて、隠れ筋肉…!
願いが通じたのか、通路の先に、隠れ筋肉が警備員を連れてこちらに向かってきているのが見えた。
「警備員さんだ!警備員さんが来ました!」
警備員が来たと言えばチャラピーが手を離すだろうと油断したのがいけなかった。
「じゃ、お役御免だね♪さっ、行こっ!」と私の手を握ったまま立ち上がらせ、連れ出そうとする。
「わっ」
グギッ。
バランスを崩して転ぶ…!と思ったが、フワッと宙に浮いた。そう、隠れ筋肉が私を猫のように持ち上げたのだ。
チャラピーも驚いたのか、思わず握っていた私の手を離した。
隠れ筋肉がチャラピーに向かって「帰りなさい」と一言告げると、チャラピーは筋肉には勝てないと思ったのか、すごすごと帰った。
「まったく、なんてトラブルに巻き込まれやすい人なんだ」と軽くため息をつかれた。
「すみません…」
隠れ筋肉はそっと私を地上に下ろすと、すぐに足を捻挫していることに気が付いた。
「…一駅先に私の医院があります。時間は終わってるんですが、テーピングと湿布を出すぐらいならできますので」
「はい…」
なんだか叱られているようで俯く。
「怒ってる訳じゃないんです。そのままでは心配なので。ちょっと寄る時間はありますか」
「あります。すみません…」
猫のように持ち上げられて、呆れられて。絶対にレディーとしては見られてない気がする。もう私の恋は終わっているのかもしれない…。
だけど、患者?としてまだ筋肉と一緒にいられると思うと嬉しい。
「私の腕、掴んでいいですから」
「はい」
ドキドキしながらそっと掴むと、ハァとまたため息をつかれた。
「体重こちらに全て掛けて構いませんから、しっかり掴んでください。では、行きましょう」
隠れ筋肉の腕は、もうスーツ越しにわかるくらい筋肉だ。そしてなんか良い匂いがする。
ダメだ。完全に恋してしまった。
名前も知らない初対面の男性に。負傷したとはいえピョコピョコついていく。
「The Fool」のカードのことなんて、この時の私は完全に忘れていた。
ああ、The Fool。




