大嫌い
男視点
大嫌い 大嫌い 大嫌い…
妻の声が脳内に木霊し続ける。
邪魔者は消えようと思っただけなのに、なぜこうなった?そんなに取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか。
また俺は、知らぬ間に妻を傷付けてしまった…?
大嫌い 大嫌い 大嫌い…
鳴り止まないリフレイン。繰り返される度に意識がグングン深海へと沈んでいくようだった。いっそ溺れてしまえば楽になる。もう抗う気力もなかった。
「あの…さっきは言い過ぎました。…えっ?」
どこか遠くから妻の声が微かに聞こえた気がしたが、幻聴だろう。
一体どこまで沈んでゆくのだろう、俺は。
「あのー、もしもーし?えっと、、占い師さーん
?おーい!」
耳元にゾクッとするようなくすぐったい空気を感じて、ぼんやり横を見た俺は
反射神経で飛んだ。
妻が、キスしてしまいそうなくらいの距離で横にいたのだ。思わず真っ赤になっているだろう耳を尻餅をつきながら押さえた。
「大丈夫…ですか?あの、ごめんなさい。さっきは言いすぎました」
「え、いや、あの、全然…」
テンパってしどろもどろになる俺を妻は申し訳なさそうに見て、言葉を続けた。
「私、みんなで猫カフェに行くの、楽しみにしてたんです。猫好きのみんなで。だから…」
彼女がそう言いながら差し出した手を
…俺は握れなかった。
「なんで泣くんです~」
「それはコイツが童貞野郎だからさ」
遠くでチャラピーがなんか言ってきた気もするが、それは無視した。ラブが呆れた顔をしながら近付いて、ふじねこの刺繍が入ったハンカチを渡してきた。
「俺はっ…君に嫌われるのが怖いっ…ぐすっ」
「や、それは、言葉の綾というか、本気では」
「だけどそれ以上にっ…君を傷付けるのが…怖い」
妻は一瞬驚いたように目を見開いて、馬鹿だなぁというように優しく微笑んだ。
「私、そんなに繊細に見えます?こうみえて、結構タフなんですよ?寝て起きたら大体のこと忘れちゃうというか」
俺を宥めるように笑ってみせた彼女の顔が、前世の妻の顔と重なった。
「君はいつもそうだ。辛いことがあっても、不満があっても、全て微笑みの下に隠して、ひとりで耐えようとする…っ!」
そう訴えた俺の目をまっすぐ見て、彼女は言った。
「占い師さん…誰をみてるんです?」
「あっ!いやごめん!なんでもない…こともないけど…」
『今』を生きている彼女に、勝手に前世を重ねてどうにかしようとしている自分の言動に愕然とした。とても酷いことをしているような罪悪感を覚えた。それが彼女にバレてしまってはいよいよ絶縁されてしまうだろう。
チャラピーがそのことを黙っているのは、前世で夫婦だったと彼女に知れたら少なからず意識してしまうことを恐れているのだろう。好都合だ。
ラブにハンカチを返しながら言う。
「ごめんなラブ、心配かけて。あとで骨買ってあげような」
「えっ骨?なぜ…」
ダメだ。全然切り替えられてない。
「もーまた変なこと言ってないで。行きますよー」




