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待て

女視点

 脇腹くらいの高さに、二足歩行しているハチワレ猫がぐるっと一周刺繍されている。

 よく見るとその内のひとつは高跳びをしているのだが、背面跳びなので思い切り背筋が伸びている。


「ぜんぜん猫背じゃない。ふふっ」


 トイレでひとりごとが溢れる。隠れ筋肉の思いやりと手際の良さ、頼りがい全てが嬉しくて思わずパーカーを握りしめる。


 高揚を抑えて女子トイレを出ようとしたら磨りガラスに男性の影が写った。え、こわ……おそるおそるドアを開けるとその影の主は隠れ筋肉だった。


「ごめんなさい。いなくなっちゃうんじゃないかと…不安で」


 申し訳なさそうにしつつも安堵した様子の彼を見て懐かしい感じがした。


「あっ…あの時、私が何も言わずに帰ったからですよね…」


 隠れ筋肉は少し動揺した様子で「いやっ、私が、寒い中待たせてたので」とフォローしてくれて、何だか胸が痛い。


「違うんですっ!…勘違いしてしまいまして」

「勘違い?」

「あの~、あの時女性の話し声が聞こえまして…」

「もしかしてうちのスタッフの…。お恥ずかしい。。」

「せっ、先生が、いつも…女性を院に連れ込んで遊んでるのかなって」

 言い終わると同時に隠れ筋肉は、顔を両手で隠してしゃがみこんだ。

「わっ、ごめんなさい!失礼でしたよね!今は全然そんなこと思ってないんで!!」

 私が慌てて肩に手を乗せ彼の顔を覗き込むと、くぐもった声で「どうしてそんな勘違いを…」と呟いた。

「いや~猫を連れ込んでるっていう言葉を聞いて、猫は女性の比喩表現なのかなと。せっかく親切心で病院まで連れてきてくれたのに変な勘違いしてすみません!今は先生が真の猫好きってわかってま」


「…親切心だけではなかったですが」


 急に顔を上げた彼の顔が思ったよりだいぶ至近距離にあって固まった。何故か熱い瞳でみつめられて意味深なことを告げられているような気がしないでもない。それってどういう…。


「ちょぉっっと待ったぁ!!ラブ!!待て!!」



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