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05 黄金の雨、爆発的に広まった感染症を根絶する。

「ぬうう。オーガロードも失敗か!」



魔界・大森林グリムフォレストにある魔王城では、玉座に座る魔王が不機嫌そうにそう口にしていた。


玉座の間は、魔王の怒りによって重々しい雰囲気に包まれており、魔王の他に口を開けることができる魔物はいなかった。



「忌々しいユリンめ。奇跡の雨などと、ふざけたものを降らせおって!」



憤怒の表情で女神ユリンに対する怒りを現す魔王の声が、玉座の間に響き渡る・・・。


ユリンの雨さえ降らなければ、全てうまくいくはずだった。


雨のせいで、既に魔王軍の半数の戦力は失われている。


その中には魔王軍の幹部である四天王の二人も含まれていた。


魔王がイライラしていたその時である。


一人の魔物が玉座の間に入ってきて、魔王の前に現れたのは。



「オーガロードは失敗したようですな、魔王様」



どこか嬉しそうな表情で、そう口にする魔物。


その外見は、豪華なローブを纏ったスケルトンだ。


その手には、身体と同じくらい大きく、先端に怪しく光る赤い宝石をつけた杖を持っている。



「・・・オーガロードの死がそんなに嬉しいか?リッチよ」



その言葉に、魔王は怒りを含んだ声でそう答え、目の前の魔物・・・四天王の一人であるリッチを睨みつけるのだった。



「滅相もございません。ただ、あの単細胞では、神の奇跡に対する対策を十分に練ることなど到底無理であったのだと、私はそう申し上げたいのです」



そう口にするリッチ。


彼、リッチはアンデッド達の王で、魔法や呪術などを得意とし、知略を巡らせる知将タイプなのだ。


同じ四天王であるオーガロードとは正反対のタイプであり、彼とは犬猿の仲であった。


魔王の言葉を否定したリッチだったが、その実、内心では目障りな奴がいなくなり小躍りしていた。



「そう口にするのであれば、貴様は策があるのであろうな?リッチよ」


「勿論でございます、魔王様。今までのユリンの雨の傾向から、万全の策を準備しております」


「では、貴様に任せよう、リッチよ。だが、そこまで申したのだから失敗すれば命は無いと思え」



そんな会話をして、魔王は四天王の一人、知将リッチにユリーヌ国への侵攻を任せたのだった。



「このリッチにお任せあれ。ふふふふふ」



自分の策に絶対の自信があるリッチは、そう言って不敵に笑うのであった。










「今日は暑いなぁ」



スイはそう言って、森のいつもの場所を目指して歩いていた。


今日は荷物が多いのか、その背にはリュックがある。



「よいしょっと、さ~今日も読書を楽しもう!」



いつもの場所に到着したスイは、腰かけてリュックから取り出したラノベを読み始めた。


そして、一緒に持ってきたペットボトルのジュースも、リュックから取り出して隣に置くのだった。











ユリーヌ王国内では今、感染症が大流行していた。


王国内の国民の大半が罹患しており、新種の病のせいか、治療手段がなかった。


最初にそれが発症したのは、グリムフォレストに最も近い場所にある村だ。



「げほっげほっ」


「なんだお前、風邪でも引いたのか?バカのくせによ!」


「げほっ、うるせえ!風邪引いてねぇんだから馬鹿はお前だろ!」


「なんだこの野郎!・・・ってお前すげえ熱じゃねえかっ!」



これは、最初に感染したと思われる村人の会話である。


そして、その日のうちに村内で咳を出して高熱を出す村人達が次々と出始めた。


発症者が増える速度が、異常にはやかった。


さらに次の日も、その次の日も、次々と王国内で発症者が増えていった。


最初の村で感染者が出たその日の内に、その村の出入りを封鎖したのにも関わらず、である。


あまりの異常さに、すぐにこのことが騎士団に報告されたため、迅速な隔離を行った。


王国内の対応に非はなかった。


だが、その感染症は想定をはるかに上回るほどに厄介なものだったのだ。


どうやらこの感染症は、感染してから症状がでるまで、長い潜伏期間があったらしい。


その結果、王国内で感染者が爆発的に広がってしまった。


今では、国民の8割がこの感染症に罹患し、苦しんでいる。


未だに死者が出ていないことが奇跡だ。


黄金の雨のおかげで栄養豊富に育った野菜や肉を食べているからだろう。



「おお、どうか・・・どうか、我々をお救いください、ユリン様」



ごほごほと咳をしながら、自らも感染症に罹患してしまっていた王は、ベッドの上で女神ユリンへ祈りを捧げるのだった。











「ふふふふふ、作戦の第1段階は成功したな」



四天王リッチは自らの屋敷の中で、魔界で作られた高級ワインを飲みながら、自分の策がうまくいったことで悦に浸っていた。


そう、この感染症はリッチの仕業であった。


彼は得意の呪術を使い、魔界に生息する蚊に感染症の元となる呪いを仕込んだ。


自らの持つ魔力と呪力を最大限に込めたものを混ぜ合わせて練り上げた、より感染力が強く、より潜伏期間の長い呪いだ。


あまりに凝縮しすぎて、1匹しか呪いを仕込むことはできなかった。


しかし、グリムフォレストとユリーヌ国の境目で解き放たれたその蚊は、無事に役目を果たしたようだ。



「では、第2段階に移るとするか」



そう言ってリッチは、飲み干したワインのグラスを置いて立ち上がるのだった。











ジョロロロー



「はぁ~気持ちい~」



スイは、いつもの森の小便器である木に向かっておしっこをしている。


おしっこが終わり、ピッピッ、と残尿を払うと、また読書位置に戻った。


先ほどまで読んでいた本の内容は、異世界転移した薬学チートを持つ主人公が国で蔓延している感染症の特効薬を作るというもの。


特効薬を使って国の危機を救った主人公は、人々から感謝され、ハーレム状態になっていた。


その本も今は読み終えている。



「よし、次のやつを読も~~~っと」



リュックに読み終えたラノベをしまい、新たなラノベを取り出す。


ペットボトルのジュースをゴクゴクと飲んだスイは、また読書を始めるのだった。











ユリーヌ国に、黄金の雨が降った。


それを見た人々は、高熱でベッドに横になっていたにも関わらず、外に出た。



”奇跡の雨”の力を信じていたからだ。



そして、信じていたその雨は、人々の期待を裏切らなかった。



「ああ、身体が楽になっていく!」


「すごい!あんなに長く苦しめられていた熱が消えたわ!」


「咳もだよ!ユリン様の奇跡が・・・またあたし達を救ってくれたんだ!」



雨を浴びた人々から高熱が消え、咳が消え・・・感染症が治ったのだ。


身体の中の悪いものを浄化しようと、皆大口を開けた状態で顔を上げ、黄金の雨を飲んだ。


ベッドから起き上がれないほど衰弱した老人にも、人々は深皿に降ってきた黄金の雨を入れて飲ませてあげる。


老人は元気になった。


そんな様子が、ユリーヌの国の王都や村々で見られる。


国民の8割を苦しめていた感染症は、この一度の雨で根絶されたのだった。


死者は0である。


そして、再び奇跡の恩恵を受けた人々は、口々にこう言うのだった。



「「「 ユリン様、ありがとうございます!!! 」」」





スイのおしっこは、強力な感染症さえも治してしまった。




・・・だが、ユリーヌ国の人々は知らなかった。


この感染症を治した”奇跡の雨”を降らせることこそが、魔王軍の四天王である知将・リッチの策であったことを。


そして、危機がすぐそこまで迫っていたことを。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何時もハーレム形成する物語主人公w ユリン女神さまが両手でスイ少年の黄金水をゴクゴク飲んでる姿を妄想して興奮(;´Д`)ハァハァ <危機がすぐそこまで迫っていたことを。 なんだって~~…
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