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6話 ねこじゃないよ

「…はい?」


 なんだ私の120%って。怖いよ。ストーカーだよ。

 予想外の角度からの解答に思考停止していると、メイドさんは滑らかな動きで一礼した。


「はじめまして。我が主、ルーシュ・ルネージュ様、()()()()()()()?」


 名前を呼びながら誰何するという矛盾に、ハッとした。

 私がルーシュさんじゃない事がバレている。何と答えるのが正解なのだろう。本名を言うべきだろうか。言って伝わるんだろうか。

 目に見えて硬直した私にメイドさんは声をかけ直す。


「……いえ、誰であるかはそこまで重要ではありません。質問を変えさせていただきます。貴方に、ルーシュ・ルネージュとしてどこまで記憶がありますか?」

「………一切ありません」

「そうですか。分かりました」


 思いのほか淡々とした態度に驚く。

 家に帰ってきた主人が中身違う人だったのに驚かない使用人。びっくりだよ。

 メイドさんはすっと少し離れた部屋を指し示しながら言った。


「ひとまず、汚いので外から帰ってきたら、手洗いうがい入浴してください。汚いので」


 汚いのでって2回も言った!腐っても主人に対して!!しかも帰宅後すぐに手洗いうがいは、まぁ分からなくはないけど。入浴ってなんですか。そんなに汚いのかルーシュさん。


「貴方はどうなのか知りませんが、ルーシュ様は外出するとはしゃいで地面を転がり回る事があるので、砂ぼこりまみれの可能性があります」


 ヤバい奴やんルーシュさん。外出てはしゃいで転げ回って、家に帰ったらオカンに「外から帰ったら手洗いうがいしなさい!もーこんなに泥だらけになって…もういっそお風呂にも入っちゃいなさい!」って言われるのか。それなんて小学生?


「えっと…じゃあ、お借りします……」

「そうでした、記憶は一切ないのですよね。使い方をお教えします」


 くるりと振り返って先を進むメイドさん。スカートの上の方からしっぽがゆらゆら。ピピッと振った耳はこっちを意識するように後ろに向けられている。


「……やっぱりね「違います」だ………」


 ボソッっと小さな声で発したのに被せてきた。

 振り返って睨まれたから気をつけよう。



 ***



 案内された浴室は、かなり広かった。立派な旅館のお風呂ぐらい。

 メイドさんが洗面台を指し示した。


「まずこちらで手洗い、うがいをして下さい」

「はい」


 蛇口を捻って水を出す。シャバシャバ。手を洗って、うがいをする。ガラゴロ。

 その間に浴槽に水を貯めていたメイドさん。


「では、これは水ですので。お湯にしてください」

「ガラゴッ!ゴフッ!!」


 無茶言うなよ!思わず吹き出したよ!鼻から水出た…。

 メイドさんがにんまり笑っている。怖いよ。チェシャ猫みたいな笑い方すんな。


「ゴホッゴホッ!」

「大丈夫です。ルーシュ様は魔法が使えるはずです」

「……やり方が分かりません」

「通常、魔法を使う際は詠唱致しますが、ルーシュ様は無詠唱で発動ができますが、何か呪文を言った方がイメージがしやすく成功します。適当でいいので『お湯になーれ』とか何とか言えばなると思います」

「いや、アバウトだな!」


 さっきから地味に感じてたけど、このメイドさんもかなりヤバい奴だと思う。


「大丈夫です。ルーシュ様は、水風呂に入っても風邪をひくような体ではないので」


 大丈夫ではないと思う。ひとまず、やらなきゃ水風呂だ。


「…お湯になーれ」


 ちちんぷいぷいのイメージで、浴槽に向かって人差し指をくるりと回す。すると、洞窟で光る玉に流し込んだ何かが抜けていく感覚と共に、浴槽の水がゴボゴボ音を立て始めた。

 暫くして水が静かになるとメイドさんが浴槽に手をかざした。


「お湯になってますよ。どうぞ入ってください」

「いや、お湯にしたの私……」

「この石鹸で体を、この容器に入っている液で髪を洗ってください」


 無視じゃん。もう。


「こちらの籠に脱いだものをお入れ下さい、あちらの籠には着替えが入っていますので。では、食事の準備をしてまいります。おくつろぎ下さい」


 メイドさんは、そう言ってさっさと立ち去って行った。

 残された私はポケットの異様に多い服を脱ぎ、浴室へと入った。とりあえずお湯をかけよう。順調に体を洗う。

 ……この人のすごいメリハリのあるお体をしてらっしゃる…。身長が高いと体も大きくて大変ねぇ。

 体を洗い終わって髪を洗うための液体を手に取る。ドロッとした深緑色のそれはなんだか既視感が。


「…まさか巨大トカゲの体液……」


 いやいや、分からないよ?もしかしたら植物でこんな感じの液体に加工出来るやつがあるかもしれないし。うん。

 そう自分に言い聞かせて髪を洗う。

 長そうだなと思っていた髪は、下ろすと腰の辺りまで届いた。かなり長い。緑の液体は意外と泡立ちがよく、色に反するふわっといい香りがした。

 ザバッっと流して髪をまとめ直し、浴槽に入る。


「あああ〜気持ちぃ〜……」


 適温のお湯。我ながらよくやったと思う。

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