5話 おっちゃん
門番さん(仮)の表情が驚きに変わる。
「ルーシュが冒険者登録証を無くさずに帰ってきた…?」
バシバシ叩いていた手を止め、差し出していたカードをサッと受け取るとじっくりと確認する門番さん。そんなはずはとか何とかごにょごにょ言っている。
いったい……背中絶対赤くなってる…
「本当にお前のだ……!うっ……!!」
確認が取れたのだろう。片手でカードを差し出しながらもう一方の手で目頭を押さえ斜め上を向いている。なんか泣いてるけど大丈夫かなこのおっちゃん。
「出かける度に色んな物を無くしてくるお前がなぁ…!ついにこんなちっさいカードも無くさずに持ってこれるなんて……!!」
忘れ物多い人だったのかな?ルーシュさん。よく分からんけど、とりあえずここは謙遜しておこう。
「大した事ないですよ」
「大した事ないだって?!お前、この前帰ってきた時カバン丸ごとどっかに落としてきてたじゃねぇか!」
いや、どんだけだよ。それはもはや忘れ物じゃない。
「お前も大きくなったなぁ!おっちゃん感動しちゃったよ!!」
「いや、それ、ほど、で「あんなに小さかったのによー!!おおおお!!!」
バシバシ再開。いや、話を遮らずに聞いてくれよおっちゃん。男泣きしてないで。
一通り背中バシバシと男泣きが終わったら解放してくれた。本人じゃない事がバレる以前に、こっちの話をほとんど聞いてなかったので門は通過。でも慣れれば結構良いおっちゃんだった。
「じゃあ、おっちゃんバイバイ!」
「おーう!きーつけろよー!!」
後ろを向いて手を振るとおっちゃんがブンブン振り返してくれる。なんだかほっこり。
***
しばらく歩くと人通りの多い道にさしかかった。商店街という感じで屋台がずらりと軒を連ねている。街並みは少なくとも日本らしくは無い。道行く人達は髪も瞳も暗い色合いではあるが、黒ではなく色々だった。
やっぱりこの体は背が高いんだ。周りを行き交う女性は私より頭1つ程小さい。私より背の高い人もちらほら居るが、男性のほとんども私と同程度か小さかった。
前の体…という表現が適切かは分からないが、前はかなり小さかったので、男性は見上げるのが基本、女性でも同じぐらい小さい人は少なかった。こうしてみると新たな発見がある。人のつむじがよく見えるのだ。高身長すごい。つむじワールド。
歩みを進めると沢山の人から声をかけられる。
「あ!ルネージュさんじゃない!おかえりなさーい」
「ルーちゃんよってって!」
「ルーシュこれ食べて行ってよ!試しに作ったんだ」
なんだか地域に愛されてる人みたいだ。
「この時間にフラフラしてるなんて、また自分のお家忘れちゃったのかしら?」
「ルーちゃん今日は荷物多いねぇ!無くさなかったのね」
「どうだ?それうまいか?ルーシュが前ケホフの毒は効かないって言うから混ぜてみたんだ。」
……ルーシュさん、実は結構ヤバい人なのかもしれない。自分の家の場所忘れるって大丈夫なのかこの人。また荷物量確認されてるし。最後の人に至っては貰って食べちゃった後に聞いてきたよ?なんか初耳の毒を平然と盛ってきてたよ?
最初の人に地図を書いてもらってこの人の家らしい場所を目指す。この人の家はもう少し進んだ町外れにあるらしい。
***
教わった家に着くまでも老若男女色々な人に話しかけられた。どの人も好意的で、ルーシュさんは人望が厚い人のようだ。お年寄りからはお菓子やら野菜やらを持たされた。あまり会話しないようにそそくさと会話を切り上げてきたが、地域の人と話して浮かび上がって来たその人物像は、多分、バカな人だ。しかもかなり。
「たぶん、ここかな?地図のとおり来たけど…」
見上げる程ではないが、かなり大きめの家がポツンとあった。しっかりとした造りの家だ。小さいが庭もある。門扉を押して入る。
「おじゃましまーす…」
なんとなく不安になってそろそろと進む。立派な扉に手をかけて、ふと思う。……こんな立派な家に一人暮らしなのかな?追い出されたりしたらどうしよう。そうなったら野宿か。いちかばちか、やらないよりはやった方がいいよね。気を引き締めてドアノブに力を入れる。
ガチャッ!
開かない。
ガチャガチャッ!!
えっ、うそ開かない!
焦って辺りを見回すとドアの傍に張り紙があった。小さい紙だから気付かなかった。丸い可愛らしい字でこう書いていた。
【引いてください。】
バレてる…。押して焦って周り見るとこまでバレてる……。引いたら開きました。
開いたドアの先には───
「おかえりなさいませ。」
───子供ぐらいのサイズの猫がいた。
しかもメイド服を着ていた。両手を揃えてお辞儀している。
「え……ね「違いますそんな低俗な生き物ではありません」がいる……?」
しかもセリフ被せてきた。
「え、でもね「違います」じゃん……」
ルーシュさん発言権無いのかな。
「違うんですか?」
「違います」
「じゃあなんですか…?」
「あなたに仕える、あなたの事を120%知っている優秀なメイドです」
「…はい?」