3話 おもいこみ
すっと光る玉に目を移す。
ぼわっと暖かそうに光るその球体は、触れていいのかどうなのか。
「いやぁ…異世界転生系でこういうの触っちゃうと…だいたいなんか起こるよね……」
目を閉じて、これに触ったらどうなるかを複数パターンで考える。
触る→厳かな声が何かを告げる→死にはしない
触る→爆発する→死
触る→私が暴走する→死
触る→玉が暴走する→死
……4分の1は死んでるな。でも触んないとダメかぁ…やだなぁ…
「昔セミの死骸触った時より触りたくない気持ちが……」
よく見ると、光る球の近くにカバンのようなものが落ちている。…この体の人の持ち物か?
「持ち物のひとつなら死なないはず…ここはポジティブにいこう!」
気持ちを改めすっと光る玉へ手を伸ばす。しかし脚が長い人って腕も長いんだなぁ。ハッ、ダメだ今はそんな事を考えてる場合じゃない。
ペトッ
触れると同時に体からすうっと何かを吸い取られる感覚。そして光が……
──ちょっと明るくなった。
「明るくなるだけかーい!」
拍子抜けの展開に思わずツッコミが。
手を離すと明かりは徐々に弱くなり、元の明るさに戻る。これ、明るさ調節とか出来んのかな?もう一度触れる。
ペトッ
再び何かを吸い取られる感覚とともに、玉の明るさが増す。吸い取られている何かをさらに玉へ流す。イメージはそう、弱めのかめ〇め波。
体内の何かが玉へ流れ込む量が増えると、思い通りさらに明るく光を放った。
「わぁ〜明るぅい…っておわっ!」
明るくなったため、新しい発見があった。ショルダーバッグのような物と、細身のよく切れそうな剣(剣先に緑の液体付き)。ナニコレ。
「これ絶対なんか切ったあとじゃんか……」
それでも剣を持ちたい衝動に駆られてひょいと持ち上げる。武器って触ってみたくなるよね。
意外と手に馴染むそれをヒュッとはらうと、謎の液体は滑り落ちた。そのまま慣れた動作で腰の鞘へと納刀する。なんでや。
「え、無意識に鞘にしまってる!ナニコレこわい!」
そして、ショルダーバッグ(仮)も手に取る。中身は干し肉と思われる物と水筒のようなもの、そしてカードサイズの文字と写真の載った免許証のようなもの。その文字は日本語ではない。しかし、その内容を理解することができた。
「冒険者、登録証?その下に…氏名……ルーシュ・ルネージュ…?」
これがこの人の名前なのだろうか。氏名の記載の横に顔写真のようなものが載っていた。
濃いダークブルーの長髪に、切れ長の青い瞳。鼻筋はシュッと通っていて中性的な顔立ちのかなりの美人である。ただ一点を除いて。
―――高いとも低いともつかない絶妙な位置でツインテールをしていたのだ。
「ダサい!」
びっくりした。ダサすぎてびっくりした。
よく考えたらこれは今現在自分がしている髪型のようだ。なぜ数ある髪型の中からツインテールを選んだんだこの人は…!急いでツインテールを高い位置のポニーテールへと変える。他の事が気になりすぎて髪型なんて気にしていなかった。ツインテールよりはマシになるだろう。
薄明かりの中ではそこまで気にならなかったが、煌々と光る玉によって見えてきた自分の服はなんとなくダサかった。全体的に茶色なのか黄ばみなのか分からない妙な色である。
そしてなぜかいたるところに小石程度の物しか入らなそうな、微妙なサイズのポケットがついている。そのうちほとんどは何も入っていない。2、3個程中身のあるポケットを発見したが、砂とくちゃくちゃの何も書いていない紙、そして干からびた草のようなものしか出てこなかった。
「いや、小学生男子のポケットかよ!」
とりあえず大事なものかもしれないのでそのままにしておこう。もしかしたら今後活躍するのかもしれないし。うん。そう言い聞かせて見なかったことにした。
ひとまず自分の身の回りについてはだいたい分かったので、よっこいしょと立ち上がる。急に立ったせいか、少しふらっとした。
「ひとまずこっちに進んでみますかね……」
明るくなったために見えた左側の通路を照らしながら進む。ずっとここにいるわけにはいかない。洞窟は空気が澱んでいて、そろそろ外に出たいと思っていた。
それにしてもホント背が高いと地面遠いな。腕も長いし。
***
元いた場所から少し歩くと、かなり開けた広い場所に出た。
先程までは天井も低く歩きにくかった。しかし、ここはかなり上にも横にも広い場所のようだ。涼しい場所ではあるがそこはかとなく生き物臭い。心做しか呼吸音も聞こえる気がする。やだなぁ怖い怖い。体が大きいから呼吸量も多くなってるのかな?小さくなっていた明かりを大きくする。
パアアァッ!
加減を間違えてかなり明るくしてしまった。まだこの扱いには慣れない。
「うあっまぶしっ」
ぎゅっと目をつぶるが急に不自由になった恐怖で前方を探る。何か掴めるものが欲しい…!パタパタと手を動かすと、何やらひんやり湿った物体に手が当たる。これまで触れた岩壁の感触とは少し違っていたために驚く。
なんだろうこれ。しっとりすべすべ。目を瞑ったままペタペタと感触を確かめる。
「この感じどこかで…」
ひんやりした我が家のフローリング…いや、それよりは柔らかい…もっと昔に触った事が……
グルルルルル……
なんだろう……ミミズ…?それだと柔らかすぎるか……ハッ!分かった!!
「ちっちゃい頃お母さんに無理やり持たされたヘビ!!あー!スッキリし───」
思い出せてスッキリ〜と思いながら目を開いた先に
ぎゅっと目をつぶって、数秒前の私みたいにいかにも「まぶしっ」という表情の巨大なトカゲのような生物。
「うわぁ〜お、こんにちわぁ……」
グルルルと明らかに警戒音を鳴らす巨大トカゲさん。そっと手を離して静かに後ずさる。トカゲさんの目も慣れてきたようでゆっくりと目を開く。バッチリ目が合う。
綺麗なお目目ですね。
即座に猛烈ダッシュ!遅刻寸前を切り抜けてきた俊足は伊達じゃねぇぜ!!
向かい側に来た道よりも広そうな道を発見し、駆け込む。
──ギャォオオオオオ!!!──
ドドドドドド!!
凄まじいスピード。あれか。コモドドラゴンか。
「どぉしてこうなったぁぁぁぁ!!!はっっや!!」
意外と分岐の少ない道を全力で走る。