1話 始まりの(上)
──ギャォオオオオオ!!!──
あの怪物の咆哮が地面を揺らす。
ドドドドドド!!
「えっ、めっちゃ追いかけてくるじゃん!!」
早い…!巨大な体からは想像できない程のスピードだ。追いつかれたら食われると容易に想像がつく。慣れない感覚のある体を必死に動かし、洞窟と思われる場所を疾走する。
うん…分かるよ…自分の巣に異物があったら排除したいよね…でも私も思う事はあるんだ…
「どぉしてこうなったぁぁぁぁ!!!」
何度目かわからない虚しい問いかけを叫び、記憶を遡る。
***
その日は普通の日だった。
朝、3つ目の目覚まし時計を止めて目を覚ます。はっきりとしない意識のまま時計を眺める。
「しちじ…はん…」
布団を被る。大丈夫、家から学校まではかなり近い。以前7時半に家を出てダッシュしたら間に合った。
ガバァッ!
「7時半?!!寝てる場合じゃない!!」
急いで着替え、階段を降りる。
「母さんなんで起こしてくれなかったの!?」
「ごめんねぇ気持ちよさそうだったからぁ〜」
「起こしてって言ってるじゃん!」
そんな会話を母親としながらお弁当を引っ掴んでカバンへと入れる。朝食として置かれていた食パンを咥え、靴を履く。
「お弁当ありがと!いってきます!!!」
「はぁ〜い、いってらっしゃいね〜」
バタン!扉を勢いよく閉めダッシュする。サッと時計を確認。7時45分。いける。我ながら女子として身支度に時間をもっとかけないといけないとは思う。
通学路のコーナを攻める。パンを咥えているから呼吸が辛い。そこの曲がり角で人とぶつかったらどうしよう?食パンなんか咥えてたら新しい転校生とぶつかるかな?そんな事を考えている場合ではない。
「風になるんだ…私…!!」
風になったおかげか、チャイムが鳴る前に教室に滑り込む。
「ハァッハァッ、ウグッ、セーフッ!」
ガラガラとドアを開け、担任が入ってきた。
「出席とるぞー」
また、変わらない日が始まる。