雌ゾンビ
「ぁぅ」
小さくうめき声を上げて、女が地面に倒れこむ。
いきなり襲い掛かって来たので手刀を首筋に叩き込んで気絶させたのだ。
「ったく、どうなってんだ?もう10人目だぞ?」
いや、最初の5人も含めればもう15人だ。
マンションから降りて家を目指して歩いていると、出会う女全てが俺を見ると目の色を変え、襲い掛かって来る。
正直何がどうなっているのか意味が分からない。
ひょっとして自分の首には賞金でも掛かっているのだろうか?
いや、それは無いか。
俺は馬鹿な妄想に思わず苦笑する。
何せ俺はこの2年間異世界で生活していたのだ。
その前はごく平凡な高校生。
その俺の首に誰が賞金を懸けると言うのか?
仮に掛かっていたとしても、そもそも日本の賞金制度は通報などの情報提供が基本だ。
襲い掛かって来るとかありえない。
何かがおかしい。
俺の居なかった2年の間に、一体日本に何が起こったと言うのか。
何が起こったらこんな短期間で物騒な状態になるのか、考えても全く思いつかない。
人が近づいてくる!?
近づいてくる気配を感じ、俺は咄嗟に角へと身を隠す。
仮にまた襲われても撃退すればいいだけではあるが、やはり若い女性に手を上げるのは忍びない。
やり過ごせるならやり過ごしたい所だ。
ん?
若い女性?
そこで俺は気づく。
ここまでで出会ったのは全て若い女性だけだった事を。
男は元より、子供や老人の姿も見ていない。
まあ今は午前中だから男や子供に関して学校や仕事に行っているだけとも考えられるが。
本来この時間帯の往来の主であるはずのおばちゃん連中を、一度も見ていないのは不自然に感じる。
俺は角から顔を出し、そっと気配のした方を覗き込む。
やはり女性だ。
それも想像道理若い女。
「16人連続若い女か……」
これは偶然なのか?
それとも……
まあ考えても仕方ない。
とにかく今は家に帰る事を急ごう。
俺は周りの気配を慎重に伺いながら家えと向かう。
途中何度か女に襲われたが、危なげなく撃退して遂に懐かしの我が家の前まで辿り着く。
「帰って来たんだ」
ああ、やっと帰って来た。
そう思うと思わず目頭が熱くなる。
異世界に居た頃、何度も帰りたいと思った場所がここにある。
きっと父さんや母さんは俺の事を心配していたに違いない。
早く俺の顔を見せて安心させてやろう。
俺はドアノブを掴みまわす。
鍵は開いていた。
きっと母さんが家にいるのだろう。
俺はただいまと大声で叫びながら玄関の扉を潜る。
「え!?」
そこで目が合う。
玄関先に居た若い女と。
「……」
沈黙が場を支配する。
また襲われるのではないかと俺は咄嗟に身構えた。
「勇人……なのかい?」
女が俺の名を呼ぶ。
知り合いにこんな女性は覚えが無いが、向こうは俺を知っている様だ。
いや、待てよ。
この声……
それにこの顔……まさか!?
「あ……っえ!?か、母さん!?」
そうだ、この声と顔は母さんだ。
だが若い。
若すぎる。
家の母親はとうに40を超えている。
だが目の前の母はどう見ても10代後半から20歳くらいにしか見えない。
その姿は余りにも若々し過ぎるのだ。
だから俺は一瞬、それが誰なのか分からなかった。
「勇人!帰って来たんだね!
母が俺を強く抱きしめる。
何でこんなに若返ってるんだという疑問はあるが。
この温もりは間違いない。
母さんだ。
「心配かけてごめん、母さん。俺、帰って来たよ」
「良かった。本当に良かった」
母さんが俺を強く抱きしめる。
強く、強く……って、いくら何でも強すぎないか!?
母の腕が俺をぎりぎりと締め上げた。
まるで万力の様だ。
「ちょ……母さん!?」
「大丈夫。直ぐに私が気持ちよくしてあげるからね」
「な、なにを……」
母はそのまま俺を押し倒し、玄関に倒れ込む。
「さあ、一つになりましょう」
「何言ってんだ!?正気になってくれ!!」
近づく母の顔を俺は抑え込む。
力づくで引き剥がしたいところだが、母の力は凄まじい。
この状態の母を無理やり引き剥がしたら大怪我させかねなかった。
「なんだ!バタバタと!!」
声と共に若い女がリビングから姿を現す。
こっちは正真正銘見た事のない女だ。
「お前勇人か!!まさか生きていたとは」
女は俺の名を叫び。
驚いた様に目を見開く。
「ええ、勇人が帰って来てくれたのよ!あなた!」
「あなた!?」
「ははは。女に変わってしまったから分からないかもしれないが、父さんだ。さあ一つになろう」
父と名乗る女が多い被さって来る。
このままでは不味い。
そう思った俺は咄嗟に魔法を放つ。
「ショックウェーブ!」
「うわぁ!!」
「きゃあ!!」
魔法は電撃の嵐となって辺りを駆け巡る。
俺に密着していた二人はもろに感電して意識を失った。
まあ威力は絞って使ったので、命に別状はないだろう。
俺は二人を抱えて寝室まで運び。
布団を敷いてそこに寝かしつけた。
「魔法が使えて良かったぜ」
異世界で使えた魔法がこの世界で使える保証は無かったのだが、問題なく発動してくれて良かった。
両親を実験台にした様で少々心苦しいが、怪我をさせるよりはかはましだろうし、状況的にはしかたなかった事だ。
「うぅ……ん」
父を名乗った女が小さく呻き、目を開ける。
彼女は俺と目が合った瞬間俺に襲い掛かろうとするが、魔法で拘束してあるため布団から起き上がれずにじたばたと藻掻く。
「なぁ……あんた本当に父さんのなのか?」
何処からどう見ても女にしか見えない。
そんな彼女に父親だと名乗られても、ピンとこないのだ。
勿論性転換した可能性も否めはしないが、原型を残さない程の改造とか劇的ビフォーアフタ過ぎる。
「そうだよ!父さんだ!さあ気持ちいい事をしよう!!」
目を血走らせて父(仮)が叫ぶ。
何処の世界に息子に気持ちいい事をしようなどと言う父親がいると言うのか。
ド変態も良い所だ。
「お母さんとも良い事しましょう!!」
父(仮)の声で母も目覚め同調しだす。
母親はとんでもなく若返っており、父親に到っては別性になっている。
正直二人とも偽物としか思えない。
「ちょっと調べさせてもらうよ」
俺は寝転ぶ両親に手を翳し、ステータスチェックの魔法を発動させる。
高田雄三に高田早苗。
名前はあっている。
だが何故か年齢は表示されない。
そしてある事実に気づき、俺は驚愕する。
「何だよ……これ。種族雌ゾンビって……」
2人は人間ではなく、雌ゾンビなる謎の種族へと変わっていた。
俺は思わぬ出来事に愕然とする。