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最終話前編 ~明日は…~

明日無の新たなる試練とは…

 都内のラーメン好きが選ぶ神美味(かみうま)ランキング二十位(二十八軒中)、『弾丸ラーメン、百発百中』。その店主である(めん)(どう)(くぎ)(みち)は椅子に座ったまま、厨房からじっとカウンター席で爆睡している少女を眺めていた。制服を着た少女は、準備中の看板を掛けていたにもかかわらず、突如店に上がり込んだかと思えば、その場で崩れ落ち、深い眠りに落ちた。結局叱るタイミングを失った釘満は、その少女をとりあえず席に座らせ、起きるのを待つことにしたのだった。起きたらどうやって叱ってやろうかと考えながら…。


 殺風景と言われても仕方がないと釘満自身も思う。人生の全てをラーメンに注ぎ込んだ結果。それが二十年近く変わらないたった一つの「とんこつ」メニューに、飾りものが一切ない室内。質素で粗末な店に客はほとんど来るはずもない。来たとしても、他のラーメン店が混んでいるか、この店を知らないものくらいだ。三十後半にもなって、まともに客と話すことすら恥ずかしくてできない釘満は、ふと、少女の横に向かって声を投げた。もちろんそこには人もなければ、物もない。


「何でお前がいんだい…」

「…え?」


 だが、その空気だけの空間から、人の声が確かに聞こえた。釘満は久方ぶりに聞いた古き友の声を懐かしみながら、更に声を投げた。


「十四年前、行方不明になったっきりだったと聞いた。しかも体が透けてやがるときた。幽霊にでもなったつもりかい?」


 友の体は向こう側のコンクリートの床がぼやけて見えるほどの透明度であった。まるで友の形で作った薄い膜。釘満は皮肉に満ちた薄笑いを浮かべながら友を一瞥(いちべつ)した。だが友は、惑いながら答えた。


「ああ。と言っても私自身もよくわからないんだ。この身体が本当に『幽霊』というべき存在なのかどうか…」

「ふん。そうか。…まあいいわい。俺ももうすぐ四十代。肩や腰がいよいよ固くなってきた。このまま売れない店で終わるのも…悪くないかもな」


 釘満は唐突に愚痴(ぐち)を零し始めたかと思えば、ゆっくりと腰を持ち上げると、縦長の大きな銀鍋のあるキッチンに向かっていった。そこはラーメンの出汁専用の鍋があり、もちろん豚骨を使っている。豚は知人の養豚場からのもので、別段有名でもない。だが釘満はこの豚を食べた瞬間、二十年もの間、豚骨ラーメンを極め続けた。この豚にはそれほどの価値があると、釘満は踏んだのだ。だが、一向に芽は出ない。そのことに釘満は焦っていた。今年がだめなら諦めよう。そう思ったのは最近のことだった。

 だが友の声は整然と、こう返した。


「そうか。…お前は凄い。二十年も真剣にラーメンを極め続けた。…それに比べ俺は――」

「やめねえか。おっさんなんか褒めてもなんも出でんぞ。…たく、いつからそんな後ろ向きな思考になったのやら。高杉(たかすぎ)(はる)(おう)の名が泣くぞ」

「ぐっ…」


 久しぶりに聞いた自分の名前に、友・春王の(ほお)は自然と赤くなった。学生時代、王様の王がついているだけでも恥ずかしいのに、春まで付いたらもう…春になるたびに「王様! 王様!」と祭り上げられ、(はや)し立てられ、学校を何度止めようかと思ったか…。まあそのお陰で自分の名前に少しだけ自信が生まれたきっかけでもあるので、プラスマイナスゼロか。

 

けど…

けれど、………

明日無は違う。明日無は…………………


「それ。お前の娘かい」

「!」


 春王はギョッと釘満を見上げた。知らない間に明日無を見ていたのだろう。春王は首を横に振って答えた。


「いや…。私とあの人の間には何もなかった。…ただ、俺が勝手に期待して――こうして死んだ。ただ、それだけです。年は大方、私が死んですぐ産んだのでしょう。本当に…本当に……私は大馬鹿ですね」


 泣きたいのに泣けない。目頭が熱くなっていくにもかかわらず、涙は出ない。春王は悔しさと虚しさがふつふつと湧き上がってくるのを感じた。好きになった相手が突然別れてと言われ、納得いく説明を求めようと接近する手前、何者かによって殺された。その何とあっけない人生であったことか。

 握り拳が小刻みに震える、己の人生をやり直せるというのなら、今すぐにあの人の恋を諦める選択をするだろう。…いや、それは無理か。記憶が受け継がれる条件ならまだしも、もし人生をやり直したとして彼女に恋しない生涯はあるのだろうか。通学中の曲がり角、そこで偶然パンを(くわ)えた彼女とぶつかり、初恋が生まれた。もしかしたらそれも彼女の思惑だったのだろう。それでも…私は――

釘満は不敵に笑った。


「なあ、」

「…」

「まだ、やり残したことが、あるんじゃないかい。高杉」






「おつかれさん」

「ぁ…はあ~~」


 私がタダ飯の償いとして、始めた罰から三時間が経った。釘満ちの一言で疲れの限界を迎えた私は、(ようや)く体が解放されたように崩れ落ちた。私の罰は、この店を少しでも繁盛させれば解放するという無理難題なものであった。私は断固拒否したが、幽霊のおっさんはなぜか店主の味方になって私にある提案をした。二度目の拒否も多数決の前に(ことごと)く散った。


「これ…どこで――」

「んや…娘が隠れていかがわしいバイトをしているので止めさせたんだが…じゃあいらない…というのでここに捨てていったっつうーわけよ」

「…意味わかんないんですけど…」

「いや…すっごく似合っています。絶世の美女というべきでしょうか…」

「いや褒めても何も出ないんだけど!」


 私もおっさん相手に()められたのに、なぜか顔が赤くなって嬉しくなった。その後もさんざん二人に褒めまくられた私は、仕方なくシマリスマークのメイド服を着て店の入り口付近で接客&宣伝を開始した。

 ――その結果、何故か続々とお客が来るようになり、三時間の大盛況の元、私は見事課題以上の功績を残したのであった。どうして私がメイドをやった途端に大人気になったのかわからないけど、まあさっきのラーメン代を除いた初お給料も貰えたし、お客さんの前で何度も噛みながらも、一度だけどんぶりを割りながらも、メニューを一度ならず二度、三度間違えながらも、どうしてかやり遂げた。…いや。それもこれも、おっさんが傍で幾度となく励まし、店主がカウンター越しから的確にアドバイスをしてくれたお陰だ。

改めて――


「ありがとうございます」


 疲れが限界を超え、崩れ落ちた状態の行儀の悪い感謝の意。そんな私の精一杯の礼に店主は笑顔で「勉強になったろ?」と言ってくれた。私はその言葉に深く同意を示すように、「はい」と(うなず)いた。


「…いい顔になったな…明日未(あすみ)


 何故か店主におっさんと私しか知らない名を言われ、私はびっくりしておっさんを見た。


「明日未が頑張っている間に少しお話をしました。名前もすぐに気に入ってくださって…」

「気に入ったって…」

「ああ。いい名前だ。しっかり頑張んな。明日未」

「…はい」


 二度目の明日未は一度目よりも馴染んでいた。私の頬はほんのり赤くなったけど、いい名前だといわれて嫌な返事はできなかった。明日無と明日未。わたしは二つの名前を何度も心の中で復唱しながら、(ようや)く受け入れたのだった。


 その時だ。

 私の携帯電話が鳴ったのは…。私が外泊するときは、母が必ず持ち歩かせていた携帯電話。でも私は今日出ていく日は忘れずに家に置いていたはず。もしかしたら母が今までの私の行動を見越して、もう一つの携帯電話を忍ばせていたとしたら…。


――プーーッ、ただいま明日無は留守にしておりますのでメッセージを…

――明日無!

「!」


 留守番電に切り替わった直後に聞こえてくる母の金切り声に、私の全ては金縛りにあったかの如く、警戒信号を発した。相手は私を産まれてから今までずっと地獄の閻魔(えんま)女王であり、私が逆らう余地など一切ない主従関係が身に染みついていたようだ。体の節々が先ほどの疲れを一気に吹き飛ばし、あまりの恐怖と嗚咽(おえつ)が私の体を支配していた。


――どこ行ってたの? 早く帰ってきなさい。…じゃないと、もっと痛いことするわよ? あなたの大切な物全部壊すから…は・や・く・か・え・って・き・な・さ・い・あ・す・む!


 その声はいつまでも私の耳を通って、体全体を麻痺させていた。


構想していた二つの話を一つにできるんじゃね作戦は見事失敗に終わり、文字通り前編・後編にすることで決着いたしました。作者の不手際で誠に申し訳ございません。…だいたい後書きが謝罪文で始まってますね。次回こそちゃんと終わらせますので、2020年も後悔のないよう好き放題、存分に書いて書いて書きまくります。故にストーリーの配分をしっかりと練られるような一年にしていきたいと思います。

 話は変わりまして、家族の一人が大好きな僕らのヒーローアカデミアライジングなんとかという映画を観てきました。作者の人大丈夫ですかね…。もっと面白いものを作るために原作最終回ネタを映画でやっちゃうって…。まあもし最終回の時になれば、まためっちゃいい話を作ってくれそうで期待しちゃいますね。2020年のトップアニメ映画バッターは、私としてはメイドインアビス(R15か18)、そしておジャ魔女どれみ、プリンセスプリンシバル、そしてなんといっても鬼滅の刃! もしや銀魂は鬼滅に埋もれないように来年にしたのかもしれませんね…。それでは次回、最終回で!

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