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002「教養はレディーの嗜み」

「あなた、アヤメって言うのね。私は、モモよ。仲良くしてね」

「はい、モモ様。よろしくお願いします」


 天蓋付きのベッドまであるコケティッシュな部屋の中で、モモと名乗る少女が、身の丈とほぼ同じ大きさのヨシキリザメのぬいぐるみを抱えながら、可愛らしく小首を傾げて言うと、アヤメは、そのキュートな仕草に思わず表情筋を緩ませながら、会釈を返した。

 すると、二人の周囲に立っている眼鏡の二人のうち、ボブカットでクラシカルなメイド服を着た人物が、オドオドと目を泳がせながらモモに言う。


「あの、モモ様。そろそろ、お勉強の方を。宿題の進みが遅いと、奥さまが。……いえ、スミマセン」


 ムッと頬を膨らませて怒りを表すモモに、思わずメイド服の人物が怯む。すると、カミツレはモモの側にツカツカと近寄り、華奢な細腕の中からスッとぬいぐるみを抜き取ってしまう。


「あっ! 返してよ、カミツレ」

「今は、お勉強の方が先ですよ、モモ様」

「返して。返してってば」


 モモは、ピョンピョン飛び跳ねながら、カミツレが高々と掲げるぬいぐるみを取り返そうとする。しかし、二人の身長差から、奪還はかなわない。

 それでもモモは、しばらく毛足の長い絨毯から埃を立てながらパタパタと動き回っていたが、カミツレの辛辣な一言で諦め、机に向かう。 

 

「モモ様。白馬の王子さまは、可愛いだけじゃなくて、賢くて素直なお姫さまがお好きなのですよ。スミレの手を焼かせてるようでは、プリンセスには程遠いですね」

「グッ。わかったわよ。王子さまのためだもの。宿題を終わらせるわ」

「偉いですね。――それでは、スミレ。あとで戻りますから、しっかり見てるように」

「はい、カミツレ」

 

 スミレと呼ばれたメイド服の人物が背筋を伸ばして返事をすると、カミツレは、ぬいぐるみをソファーに置きながら、どこか満足そうにニッコリと微笑む。そして、筆入れから鉛筆を取り出して計算を始めたモモに一礼してから、ボーッと突っ立ってるアヤメに声を掛け、部屋の外へと誘導する。


「今度はキッチンへ向かいますよ、アヤメ」

「あっ、はい」


 しずしずと早足で廊下に向かうカミツレを、アヤメは、バタバタと落ち着きなく追いかける。 

・モモ 

三月三日生まれ。花森家の次期当主。天真爛漫。ミッション系の女子校に在学中で、異性との接触は皆無に等しい。

・スミレ

一月十五日生まれ。女中。真面目で努力家だが、イマイチ要領が悪く、料理の腕は壊滅的。容姿に自信が無く、人見知り。切り揃えたボブ、オーバルの眼鏡が特徴。

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