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001「質問は一つだけ」

「あなた、五月五日生まれで間違いないわね?」

「はい」


 チェーンの付いた眼鏡越しに手元の履歴書を見てから、貴婦人が朗々と正面で椅子に座っている人物に質問すると、その鋭い視線の先にいるタートルネックのセーターを着た人物は、緊張で声を裏返らせながら答えた。

 貴婦人は、側に立つ燕尾服の人物に小声で何かを伝えると、燕尾服の人物は静かに貴婦人に会釈してから、セーターの人物の横へと移動する。

 そして、不安の色を隠せないまま冷や汗を流すセーターの人物に向かって、燕尾服の人物は、こわばりをほぐすような微笑みを浮かべつつ、耳心地の良い落ち着いた声で話しかける。


「花森家へようこそ、アヤメ」

「アヤメ? 私の名前は」


 アヤメと呼ばれた人物が燕尾服の人物に言い返そうとする。すると、それを遮るような強い語気と声量で、貴婦人がピシャリと言い放つ。

 

「この屋敷の中では、本名を秘して誕生花で呼び合うのがルールです。よろしいかしら?」

「はっ、はい」


 どもりがちにアヤメが返事をすると、貴婦人は表情を和らげ、満足したように大きく一度頷いてから、片手で手話のようなサインを燕尾服の人物に送る。

 すると、燕尾服の人物も、白手袋をした手でサインを返してから、その手をアヤメに差し出して言う。


「邸内を案内します。まずは、キク様のお嬢さまである、モモ様のもとへ向かいます。――立てますか?」

「あっ、はい。自力で立てますから」


 アヤメがぎこちなく立ち上がると、燕尾服の人物はクスッと小さく忍び笑いをこぼしてから、キクという貴婦人に向かって一礼する。


「それでは、キク様。行ってまいります」

「しっかり教育するのですよ、カミツレ」

「はい。心得ました。――廊下は、コチラです」

「はい」


 カミツレと呼ばれた燕尾服の人物が先導すると、アヤメは、ペコペコと貴婦人に頭を下げてから、急ぎ足で部屋をあとにする。

・キク 

十一月三日生まれ。花森家の女当主。夫を亡くしてから男性不信に拍車がかかっている。

・カミツレ

二月十四日生まれ。執事兼家庭教師。中性的でミステリアスな男装女子。紳士的で男女問わずモテる。猫が苦手だということを隠しているつもりでいる。一つ結びのロングヘア、スクエアの眼鏡、白手袋が特徴。

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