星羅の月 十五日(晴れ)
星羅の月 十五日(晴れ)
私のお店には、精霊を生成する魔法薬が置かれている。半分以上が趣味で構成された魔法薬だ。
本来、魔法薬とするのは、安定しない魔法や、式が難解で現実的に発動が不可能な魔法、薬という状態だと都合がいい魔法、多数の式を合成した魔法だ。
しかし精霊を生成する魔法は、超基本の魔法。魔法使いなら誰でもできそうな単純な魔法なのだ。魔法を独学で学び始めたばかりの、私でも扱える魔法なのだ。
どうしてそんな魔法薬が存在していて、私がお店に並べているのかというと、趣味としか言いようがない。
魔法使いとしては実力がはっきりとしない私は、お店で魔法を使えない。だから魔法薬という形にして、いつでも好きな魔法を使えるようにしたのだ。
お店に置いているのはそのついで。
本題はここからで、今日はその魔法薬に手を加えた。そのせいで種類が増えて、棚を圧迫している。
魔法の勉強に関して、最近は実りがあると感じた。主に実ったのは精霊の活用方になる。
魔法使いにとって精霊とは、代理人みたいなものらしい。代わりに何かをやってもらったりする。
よくあるのは、感覚の共有や魔法の代行だそうだ。例えば、視覚を共有してから、精霊を空高く飛ばす。するといい景色が見られるのだとか。
魔法の代行はそのままの意味。魔力を渡して、魔法を使ってもらう。代行してもらえる魔法は術者が使える魔法限定みたいだけど、魔力を吐き出すだけで魔法を使えるから便利らしい。私には、まだよくわがんね。
そこで私は疑問を持ったわけだ。魔法薬で生成した精霊に、魔法の代行はお願いできるのだろうか。厳密には薬で生成した精霊であって、自分で生成したわけじゃない。私の魔力で作った魔法薬だから、私の精霊として扱われるのだろうか。とかそんな疑問だった。
結論は、そもそも魔法薬で生成した精霊は、誰のものでもないようだった。魔法の代行はもちろん、感覚の共有も難しそうだ。完全に観賞用の精霊になっていた。
初期の目的を思えば観賞用で十分だった。しかし、精霊としての本分から逸脱しているのは間違いない。魔法薬の精製者として、魔法が十全に発揮されないのは、自尊心が許さなかった。
そこで、精霊の精製薬に、それぞれ別の魔法式を組み込んだ。
今日やったのは、発光する魔法だ。これにより、精霊が明かりになるようになった。暗い中でも安心。自動追尾で両手が空く、そんな明かりを作り出す魔法薬になった。
他にも、精霊が道案内をしてくれる魔法薬も作った。かわいい。
満足はしていないけど、これで精霊が魔法を使うという状況は作り出せた。見た目だけ、それっぽいはずだ。
精霊が魔法を使う意味を考えて、また思いついたら増やしていくつもりでいる。今は予め込めた、たった一つの魔法しか使ってくれないけど、最終的には使ってもらう魔法を選べる形にしたい。複数の魔法を仕込んで、その中から選ぶような形になる。これがまるで答えが見つからないくらい難しいのだ。
魔法で使えば簡単なのに、魔法薬にすると本当に難しい。込めた魔法が発動しないだけなら、魔力を込めないだかして、不発を狙えばいいけど、発現するかしないかを使用後に選べる魔法薬なんて、どうすればいいのか見当もつかない。
精霊に関しては、魔法薬にする意味が全く見当たらない。魔法で使えばいいよ。ずっと簡単だし確実だ。手動で使うのが難しい魔法だけ、魔法薬にすればいい。
でも、使った後に効能を選べる魔法薬なんて作れたら、きっと楽しいだろうなあ。