朝露の月 三日(晴れ)
朝露の月 三日(晴れ)
気持ちのいい朝とは、今日のような朝だ。
程よく暖かい日が差して、天が季節を間違えているみたいに温もりに溢れていた。
体調も最高だった。疲れも眠気も全く残らず、まるで新しい体に替えたみたいだった。
そんな素晴らしい日でも、やることに大きな違いはない。買い出しをしてお店を開く。それが私の一日だ。
違ったことといえば、フィアノさんに質問をしたことだ。
サンクシエカでは年の変わり目にお祭りがあるのか。フィアノさんによると、あるらしい。
豊穣の月にあったお祭りとはまた毛色が違うようで、出店をやれる人が決まっているそうだ。決まった場所に、決まった人が、決まったお店を出す。私やフィアノさんが申請してもお店を出す許可はもらえない。
出店は難しくても、自店舗で好き勝手するのは自由だ。お店を出す側として参加したいなら、自分のお店で風変わりなことをするといいそうだ。毎年、面白いお店が出てくるらしい。ちょっと楽しみだ。
過去を思い出せる薬が完成した。
失敗はなし。難しい魔法薬だけど、一発成功だった。
お客さんに連絡を入れると、今日すぐに取りに来た。走ってきたのが丸わかりな荒い息でだ。
そんなに急いでいるなら、私も急いで薬を作ればよかったかな。
お客さんは本当に急いでいたみたいで、買ってその場で薬を飲み干した。
魔法薬の効果は抜群で、しっかりと記憶が戻ったみたいだ。唸りながら笑顔で天井を見上げていた。非常に声をかけづらかった。
お客さんはその後、私に悪気がわくまでお礼を連打して、やっぱり走って帰った。
依頼に来たお客さんと今日のお客さんとでは印象が違いすぎた。私は呆然とするだけで精一杯。
とにかくお客さんは喜んでいた。それで良いんじゃないかと思う。お金も入ったし。
いつも通りに一日だったけど、思い出そうとすればいくらでもできそうな日だった。
今日はもう寝るだけだ。でも寝るまでの短い時間に、まだ何かあるんじゃないかと警戒心が解けない。




