混濁の月 二十六日(晴れ)
混濁の月 二十六日(晴れ)
帰る日が晴れてよかった。雨の中を進むのは疲れる。
行きと同じく荷台に乗せてもらっているけど、雨が降るとそれだけで冷えて辛い。
車を引いている魔法人形は雨でも足を緩めないと思うけど、地面がぬかるんでいたら進みにくいに違いない。
荷車が動いたのは、朝食の直後だった。まだ日が昇ってから浅い時間。いつもの私だったら買い出しにも出ていない、眩しい太陽を楽しめる時間だ。
太陽に背を向けて、ラウンジでもらってきた温かいお茶をちびちびと頂きながら、揺れる荷台でおとなしくしていた。
奴が出たのは、お茶が半分なくなるよりも、お茶が冷えるよりも早かった。
外から小さな足音がして、私は車から顔を出した。
あの子がいた。同一の個体かはわからないけど、行きで並走してきた動物だ。
今回も行きと同じ御者さんに頼んで乗せてもらった。私のために予定を一日伸ばしてくれた心が広い人だ。頭が上がらない。
その御者さんが動物の名前を教えてくれた。西焼き食いの有力候補、というらしい。
変な名前には理由がある。他国での呼び名を聞き間違えて、そのまま直さずに定着させてしまったとかなんとか。
御者さんは、なんたらの有力候補を知らないはずだった。行きに動物について訊いたけど、そのときはわからないと答えられた。でも、今日の帰りの道中では知っていた。
なんと、短い間に調べてくれたらしい。大風車園の辺りでは珍しくない動物みたいで、すぐに調べられたそうだ。
西焼き食いの有力候補が並走する姿を見つめながら、サンクシエカまで戻った。
疲れは不思議とあまりない。隠れているだけかもしれないけど。
明日からお店を開けられるかな。お客さんは少ないはずだし、疲れていても開けられる気がする。
そんなことを言っていると、稀にあるお客さんが多い日が明日だったりするのだ。
無理せず、魔法薬を作るくらいに留めておくのがいいかもしれない。




