混濁の月 十八日(曇り)
混濁の月 十八日(曇り)
今日は街中が騒がしい日だった。私が知らないだけで、何かあったのかもしれない。
運がよくなる魔法薬を注文してくれたお客さんがようやく来た。お店を開けてすぐ、朝一だった。
近々、許嫁と会うそうで、少しでもポカをやらないよう、私の魔法薬を頼ってくれたそうだ。まだ一度も会っていないとか。
当日はまだ先だそうだ。それなのに、既に緊張していた。そわそわしていた。
落ち着ける香料を勧めたら、二つ返事で購入してくれた。そのお客さんは何を勧めても買ってくれた気がする。だから、それ以上は商品の話はしなかった。
そのお客さんがうまくやれるよう私も願う。
その後は、無理やり時間を作って、警務部へ向かった。目的は、メイリスだ。まだ私からの報酬を受け取らせていない。
売るわけでもなく置きっぱなしの魔法薬が邪魔になったわけじゃない。
まだメイリスがいるとは思っていなかった。居たんだけど。本当は、住居を教えてもらおうと思っていたのだ。
メイリスの話をしたら地下に案内された。着いたのは、反正室と札がある部屋だった。
どうやらメイリスは透明化の魔法薬を使って、あれこれ人に迷惑を掛けていたらしい。私も本人に訊いてみたら、自棄気味に認めた。
少し前に起きた、商品消失事件にも関わっているとか。
商品消失事件は私とも無関係ではない事件だ。間接的にだけど関わった。警務部に協力した。
その事件が知らぬ間に解決していたのに、不思議と私に驚きはなかった。驚かなかったことに驚いた。
私は粛々と目的を果たす。
メイリスへの報酬は、今は渡せないと警務部が預かってくれた。
メイリスは全く反省の色を見せないと、警務部の人が困っていた。
でもなんとなくわかる。だって、衣食住揃っているし、部屋にある物はどれも良質なもの。床は私のより上品な感じがした。寒い季節に入って久しいし、メイリスはしばらく反省しない気がする。警務部の中は温かい。人が多い理由って、もしかしてこれか。
注文と他諸々が片付いて、すっかり身軽になった。しばらく注文がなければ、新しい商品でも考えてみようかな。日常的に思いつきで追加しているやつじゃなくて、もっと本格的に時間と労力を掛けて作るんだ。
きっと、気がつけば魔法薬を作ることになっている。




