夕餉の月 十九日(曇り)
夕餉の月 十九日(曇り)
どうやら、私がイラテアの青い蕾を使った薬を出したと噂になっているようだ。
とても貴重なものだから、表に出てしまえば話題になるのも仕方がない。
よくよく考えると、ヒナオさんたちはどうしてあんなにも簡単にイラテアの青い蕾がある湿地へ行けたのだろう。今日一日は、その疑問から始まった。
地図を見て方角を確認してみると、一昨日に行った湿地は相当距離がある場所だった。歩いて数十日かかる距離があるみたいだ。
カデニネクという国境付近にある湿地。
凶暴な獣や落石、場合によっては変異種まで出かねない谷を通る必要があって、運が良くても三十日程度、運が悪ければ五十日以上かかるか命を失う危険性がある。
向かえばタダでは帰ってこられない場所と認識されていて、誰も近付こうとはしないようだ。
私はこの谷に覚えがある。ゴーレムの背中から景色を見ていたから、通った場所を覚えている。やっぱりその湿地に行ったのだ。
一昨日は、本来であれば何日もかかる距離を、日が真上に来てから沈むまでに往復した。どうすればそれができるのだろう。私は体験したはずなのだけど、想像もできない。
これらを調べたり、湿地の話を訊いたりで一日を費やしてしまった。
また行きたいと思っていた。でも難しそうだ。私があのゴーレムを出して扱えるなら、同じように行き来ができるかもしれないけど。
魔法を勉強してみてもいいかもしれない。




