静寂の月 十一日(晴れ)
静寂の月 十一日(晴れ)
男性から捜し物をして欲しいと頼まれた。
私は物捜しに役立つ魔法薬が欲しいと受け取った。しかし言葉通りに、捜し物の手伝いが欲しいという意味だった。
私は魔法薬のお店をやっている。探偵ではない。
もちろん、断ろうと思った。その後、私は捜し物を始めた。
提示された額を見て、断れなかったのだ。所詮私も俗物か。
捜す物は、指輪だった。風を視覚化したような細工が施された樹脂製の指輪だ。特注品で同じものは二つとない貴重な品らしい。思い出も詰まっているとか。
捜す手伝いは私以外にも四人いた。全員の共通点は、近くでお店をやっていることだった。お店を持っている人は、お金で動くと思われている? 実際に動いてしまった私は何も言えませんが。
私は自慢の魔法薬を使って捜した。目が良くなる薬だ。効果がある内は、小さな物も見逃さない。
自分の持ち物ならともかく、人の持ち物、それも見たことがない指輪となると、魔法薬があっても捜すのは一苦労だった。
思っていたよりもすぐに見つかった。見つけたのは私じゃないけど。
後で聞いた話によると、その指輪は、亡くなった娘さんからもらった物だそうだ。指輪のプレゼントは、誕生日を何十年ぶりか楽しい日に変えてくれた、魔法みたいな指輪だった。
実際に魔法がかかっていたのかもしれない。専門じゃないから断言はできないけど、守護の印があった。
依頼人の男性は、指輪を見つけたわけじゃない私にも、報酬を持ってきてくれた。お金の固まりだった。
私はそれを受け取らなかった。指輪の思い出を聞いたからか、満足感があった。もう報酬をもらった後みたいに。
日記を書いている今では、受け取らなかったことを若干後悔している。
だって、お店の営業時間を削ってまで捜し物をしたんだからね。