静寂の月 十日(雨)
静寂の月 十日(雨)
昨日に続いて雨が降る。雨に気がついたのは、お昼の少し前だった。
辛味を感じなくする魔法薬を完成させる。そのために昨日――今日の朝方まで魔法薬を作っていたからだ。
急ぎすぎて一度失敗しなければ、もっと早く、日が昇る前ギリギリには眠れたのに。
お店はお昼すぎに開ける予定だった。看板にもそう書いた。
それなのに、危うく昼過ぎまで眠っているところだった。
ありあわせで食事を済ませて、急いでお店を開けた。
私のお店が魔法薬店でよかった。実はほんの少しだけ、予定より開店が遅れたのだけど、誰にも気づかれていない。魔法薬店にはお客さんが少ないのだ。
お店を開けてから時間も経たず、昨日のお客さんが来た。辛味を感じなくする魔法薬を注文したお客さんだ。
緊張と焦りが顔に書いてあった。きっとお店に来るまで、すれ違った全員に振り返られたに違いない。そんな張り詰めた顔だった。
私は完成した魔法薬を渡した。もう少し待てば効果がより安定するはずだけど、渡したときのままでも効果はある。
簡単に試してもらって、魔法薬の効果を確認してもらった。昨日、材料を探すついでに購入した、真っ赤な辛い粉を差し出した。
お客さんは魔法薬を試す直前まで顔を歪めていたけど、口にすると力が解けて笑顔になってくれた。辛いどころか甘かったそうだ。完全な無味だと食事がつまらないと思って、実は甘くなる薬と無味の薬で二種類作っておいたのだ。
それなのに帰るお客さんの顔は曇っていた。
お店を出る間際、食事が怖いと漏らしていた。辛さを克服した次は、食事そのものが怖くなったみたいだ。