静寂の月 八日(晴れ)
静寂の月 八日(晴れ)
髪質を変えられる魔法薬を作った。注文が入ったからだ。
一日も保たない薬だけど、効果は絶大だ。髪の癖をことごとく無くす。
ただ、この薬は濃すぎると、髪を溶かしてしまう危険性もある。
そう説明したのだけど。
注文は、私より少し年下くらいの男性からだった。癖かどうかは聞いていないけど、髪が全体的に左に流れていた。強風で煽られたみたいだった。今日は風がない心地いい天気だった。
気持ちを理解してしまった私は、魔法薬を出そうと決めたのだ。
彼は喜んだ。私が魔法薬を作っている最中、ずっと外で立って待っているくらい。
言ってくれれば、椅子とお茶くらい用意したのに。
魔法薬は完成した。効果もしっかりとしていた。
お客さんの髪の癖がどの程度か、私は詳しく知らなかったから、魔法薬を濃い状態で出した。
薄い状態から徐々に濃くして、丁度いい効き目にするように、しっかり伝えた。忘れていない。
閉店間際、そのお客さんが飛び込んできた。その頃には、もう髪が……。
なんとかならないかと焦っていた。申し訳ないけど、私では何ともできない。でも、溶けたのは髪だけだから、しばらくすれば生えてくるはずだ。
それでも彼の衝撃は緩和されず、空虚な瞳で肩を落として帰った。