帰巣の月 二十六日(晴れ)
帰巣の月 二十六日(晴れ)
今日は着色できる魔法薬の注文があった。
そのお客さんもお店をやっているそうだ。布の専門店を営んでいるとか。
商品タグの色分けに私の魔法薬を求めて来てくれた。
私が提供したのは、無色の液体だ。湖面液という。
湖面液は着色と脱色がとても簡単にできるのが特徴だ。さらに、液体なのに染み出したり広がりすぎたりしない。すぐに乾くし、他の物にも色が移らない優れものだ。
湖面液は、液体自体に色を付けるところから始まる。湖面液に色を付けるのは簡単だ。染料や金属の粉末などを落とすだけ。爪先程度の量だけで十分だ。
他にも食べ物や飲み物でも色を変えられる。匂いが着くからおすすめしないけど。花びらはいいかもしれない。
湖面液は着色したら完全に独立する。別の色の湖面液と混ぜ合わせても、色は決して交わらない。
これを利用すれば、模様や絵も描ける。いくらでも直しが効くから結構楽しめる。
タグの色分けくらいなら上等すぎるけど、湖面液は比較的安価で提供できる。そういう意味でも悪くない選択肢だ。
こぼれてしまったり、意図しない着色をしてしまった場合でも簡単に直る。後からタグの色も手軽に変更できる。いいことずくめだ。
お客さんは湖面液でだいぶ遊んでいた。初めて見るみたいで、色を付けるだけでも楽しんでいた。あの楽しそうな顔と声を思い出すと、私も楽しい。