帰巣の月 六日(雨)
帰巣の月 六日(雨)
昨日から続いている雨は、今日になって勢いを強めた。屋内にいてもハッキリと聞き取れる雨音が、朝からずっと続いた。
そんな雨の中、お店まで来てくれた人が、ある依頼をしていった。
思い出がある花を永遠に枯れないようにして欲しい。
難しくはない。けど、難しいかもしれない。
この件の難しいところは、制限時間が短いところだ。その方が持ってきた花は切り花だった。
今日はまだ綺麗だけど、明日や明後日はわからない。今日中に完成させる必要があった。
だから今日中にやった。
姿を保つだけなら、魔法薬なんか必要ない。
私は魔法薬を作る。だから魔法薬で、姿だけじゃなく香りも保てるようにした。
所謂、水生薬と呼ばれる魔法薬に浸した。
主に深い傷を負ったとき、傷口を保存するために使う。これに浸しておけば、切った花も生き続ける。
同業者の人は、たまにこの薬を使って、狭い空間で植物を育てている。
事故で燃えたりしたらどうしようもないけど、何も起きなければ花は生き続けるはずだ。
依頼人は懐疑的だったけど、何日も枯れなければ信じてくれる。私が説明した通りに扱ってくれるよう願う。
一つだけ、依頼人に伝えていないことがある。
依頼人には気づかれないと思うけど、永遠という注文は達成できなかった。気が遠くなるほど長期間、保つはずだ。でも、永遠じゃない。