豊穣の月 二十日(晴れ)
豊穣の月 二十日(晴れ)
数多の材料が集まるカシュネで魔法薬を精製した。
場所はヒナオさんの家だ。魔法薬を作る設備がないから、薬草店から借りて使った。
昔、一緒に魔法薬を勉強した友達を訪ねたのだけど留守だった。居留守の可能性はある。彼女がいれば、高価な設備を借りられたのに。
作った薬は、初歩の初歩になる薬だった。一種の染料で、水に落とすと模様ができる。魔法薬と言うよりも、魔法薬の技術を使った遊びに近い。
この模様は、かき混ぜて壊せる。模様が崩れると色水になるけど、放っておけば模様が復活する。それだけのものだ。他には何も起こらない。子供に好まれるくらいだ。おもちゃにしては高価だから、この薬で遊ぶ子供はいないけど。もっと面白いおもちゃがあるし。
初歩的薬じゃなくて、もっと高度な薬を作りたかった。でも設備が不十分な状況で値の張る材料は使いたくない。だから、ほとんど捨て値になっていた材料だけを使って遊んでみた。材料の縛りが入ると、初歩的な薬しか作れなかったのだ。
模様を作る薬以外にも色々と作った。三角錐に固まる水とか。揺らすと鈴の音がする水とか。
ほとんどが遊びにしかならない薬だった。でも今日、作った薬には一つだけ本命が混じっている。精霊を作り出す薬だ。
精霊を精製する薬はそこそこの材料を使わないと完成しない。シンジコウの胆を使って、ようやく見られる薬になる。
今日作ったものみたいに、限られた材料で作っても、試作品にもならない失敗作にしかならない。それでも、なんとか精霊を作り出せた。不安定なものが限界だったけど。
作った精霊は、すぐに崩れるし、短い簡単な命令ですら動けなかった。あれは実際の精霊を作る薬とは似て非なるもの。
私の目標は魔法薬で作った精霊に、魔法薬から命令をすることだ。それを考えれば、今日は遊んでいただけだった。今日作った精霊に、別の命令を加える余裕はないのだから。
遊びみたいな一日だったけど、得られたものもある。圧倒的に劣った材料でも、頑張ればそこそこのものを作れること。そして、水に模様を作る薬を思い出せたこと。この二つが今日の収穫だった。
水に模様を作る薬は、初歩の集合体だ。満足に作れれば、魔法薬の考え方がわかる。
今日、その薬を作って、意識の外にあったやり方に視線を向けられた。
目を向けたのは、崩した模様が元に戻るときに、別の模様にできないかだ。簡単にできるとおもう。形を指定しなければいい。歪な形にならないよう、ある程度は方向性を定めないといけないけど。たとえば、かき混ぜる勢いに応じて、大きさが変わる円形模様はどうだろう。実験としては、わるくないのかな?
もう一つ。模様を作る薬は、水に混ぜて模様を作る。それって水が別の液体に変わったってことだ。当たり前だけど、この考え方は応用できると思う。
カシュネに長居する意味はないし、もうそろそろ帰ってもいいかもしれない。
もう一日くらいは居ようと思う。サンクシエカでは買えないものが沢山あるから。他には、ヒナオさんへのお礼くらいかな。