豊穣の月 十五日(晴れ)
豊穣の月 十五日(晴れ)
お祭りが終わり、街中が静かに戻っていく。お祭りの参加者が急に消えるわけじゃないし、片付けがあるから、今日はまだ賑やかだったけど、これから静かに戻っていくはずだ。
今日はフィアノさんの出店の片付けを手伝った。とても簡単な作業で、パーツごとに解体して、台車で運んで終わりだった。終わった頃は、お昼が遠いくらいだった。
おかげで今日はお店で時間を使えた。掃除をしたり、昼寝をしたり。
私は、天使の毛髪を入手しなければいけない。注文を受けた魔法薬に必要だ。服を作り出す薬。正確には、服に見える魔力を纏う薬だ。保温性も確保できるので、服と言い切っても差し支えない。
そのために、カシュネまで行かなければいけない。残念ながら、またしばらくお店は閉めることになる。
帰巣の月になるまでが制限時間だ。あと十日くらい。明日から出発だ。
お祭りの期間中、私の部屋で寝泊まりをしていたヒナオさんにこの話をした。カシュネまで行かないといけないから家を空けると。口には出していないけど、新しい寝床を探してくださいと言ったつもりだった。
ちょうど、ヒナオさんたちもカシュネへ行くそうだ。一緒にカシュネまで行かないかという話になった。ヒナオさんの家は確か、カシュネにあるから、ただの帰宅なのかもしれない。
私にとって、とても都合のいい話だった。ヒナオさんは魔法使い。同行させてもらえれば、カシュネまでの安全が確保できる。
カシュネまでは危険な道ではないけど、動物や賊に襲われる話はまま聞く。その可能性を全く考えなくていいとなると、ありがたいとしか言いようがない。
そんなわけで、今日はお店を閉めておく準備をした。高価な物をしっかりと金庫に仕舞ったり、看板を書いたり。常連の方に、また長期間の休みになると伝えたり。
お客さんから聞いた話だけど、カシュネである催しがあるそうだ。丁度、この時期に重なる。
聞いて、思い出した。確かに催しがあった。カシュネに居た頃はまるで関心を寄せなかったけど、今は少し興味がある。時間があれば見に行っても面白いかもしれない。
それは、国内最大の魔法学校でもある、ヘミルコエアラ士官学校の模擬演祭だ。またお祭りか。