豊穣の月 八日(晴れ)
豊穣の月 八日(晴れ)
今日はお店を開く気分じゃなかった。きっとヒナオさんがいるからだ。
今朝は、いつもより早く目覚めた。ほとんど日の出くらい。その時間にはまだヒナオさんは眠っていて、可愛らしい寝顔を晒していた。
ヒナオさんは私よりも年下だ。寝相で髪が乱れている頭を撫でてみたら、妹みたいに思ってしまった。
だからこそ、差異に驚かされた。
ヒナオさんは魔法が得意だ。本人によると、ヘミルコエアラ士官学校の魔法科を、主席で卒業したらしい。
ヘミルコと言えば、国内最高峰の名門だ。今まで気が付いていなかったけど、私はとんでもない人と知り合ってしまったのかもしれない。
私も最近魔法を始めた。まだまだ初心者の中の初心者だけど、簡単すぎる魔法なら使える。
魔法薬の幅を広げて作りやすくするために、魔法を勉強している。魔法薬を作り続ける限り、魔法にも力を入れたい。
そういうわけで、私はヒナオさんに魔法を教えてもらえないかと話をした。
ヒナオさんは快く受け入れてくれて、私の部屋ですぐに魔法の練習に入った。
それからだった。ヒナオさんの顔が一変したのは。今まで朗らかで、ちょっと抜けた感じの人だったのに、全く別人のようになった。怖いと感じるくらいに。
教えてもらったのは、基本と、基本の考え方。
魔法とは、魔法を使った後の結果を求めるもので、魔法自体に意味を見出してはいけないと教わった。限界まで効率化をするのが重要だそうだ。
魔法式を調整してもらいながら、いろいろな魔法を使った。ヒナオさんに支えてもらって、ようやくできる高度な魔法は面白かった。何より嬉しかった。上達すれば、一人でも同じ魔法を使えるかもしれないのだ。
使った魔法は、細かいものを引き寄せる魔法や、脱臭する魔法、主に私の部屋の掃除に役立つ魔法だった。これらの魔法を習得できれば、ずっと部屋が綺麗なままになるはずだ。
部屋を綺麗にする魔法薬。幾種の魔法薬を作ってきたけど、そんな魔法薬は知らない。教わっていないし、独自に開発した中にもない。新しい目標ができてしまった。
今でも無理をすれば作れると思うけど、知らない魔法を薬に込めるのは危険だ。横にヒナオさんがいたら安全に作れると思うけど、手伝わせるわけにもいかない。
頑張らないと。部屋を片付けた魔法を、一人でも使えるように。