豊穣の月 六日(晴れ)
豊穣の月 六日(晴れ)
街中が忙しない。十日の用事に、みんな忙しくしている。
それは私もだ。お祭りのために薬を作ってばかり。ため息が出るくらい作っているのに、まだ足りないのはちょっと怖い。
それが影響しているのかわからないけど、いつもの半分くらいしかお客さんがいなかった。営業時間を短くしても良かったかもしれない。夕方前くらいから、もうお客さんはなかった。
初めて魔法薬の作成道具を一式、レジカウンターの上に置いた。
お店で薬を作るのは、あまりやりたくない手段だった。お客さんが来るたびに室温が変わるし、埃も多い。品質の調整が難しくなる。
でも、そうも言っていられない。お祭りまでに魔法薬の数を必要十分まで揃えたい。今日はお客さんが居なくて暇だったから、その時間で魔法薬を作った。
お店は環境が一定じゃない。室温はころころ変わるし。品質の調整が難しいけど、不可能なわけじゃない。私ならできる。結果的にも大丈夫だった。
お祭りに持っていく魔法薬が、比較的に簡単に作れる薬ばかりで助かった。
今日もずっと精製し続けたから、魔法薬の数は揃ってきた。この調子なら、お祭りの前日には遊ぶ時間すらありそうだ。
魔法薬の精製で手が離せないとき、お客さんが来て、待ってもらうことがあった。
その待ってもらったお客さんに教えてもらったのだけど、魔法薬の精製は見世物としての価値があるそうだ。見ていて面白かったらしい。
魔法薬の精製方法なんて、隠すようなものじゃない。お祭りの屋台で精製して、その場で渡すような形もありかもしれない。
ただ、屋外での魔法薬の精製は大変なはずだ。お店のレジカウンターで作るよりも、ずっと深い集中力が必要になるに違いない。……やっぱりさっきのはナシで。