豊穣の月 一日(晴れ)
豊穣の月 一日(晴れ)
今日は午前中は雲があったけど、時間が経つにつれて太陽が出てきた。
それがちょうど、サンクシエカへ到着したときだったから、おかえりと言われているような気分になった。
今朝、起きたら、昨日まで付いてきていた小さな動物はいなくなっていた。残っていたのは足跡だけだった。草や石に沿ってグニャグニャ曲がる足跡が、西に向かって伸びていた。
あの小動物を飼うのは難しかった。だから離れてくれて助かったのだけど、そのはずだけど、物悲しい気持ちが溢れた。あの感覚は忘れられそうにない。
今日、サンクシエカに帰ってきて、まずやったことは、あの小動物が何者かを調べることだった。街の門と家の直線状に、資料館があるものだから、帰るついでだ。
資料があれば、生態まで調べるのは簡単だった。ミュラフという生き物のようだ。基本的に人懐っこくて、飼いやすい。
しかしどちらかと言えば、害獣に分類される動物らしい。人の生活圏にひょいと入り込んで、いたる所に巣を作るそうだ。気が付いたら壁に通り道の穴を空けられていた事例も珍しくないとか。異臭に気が付いて探してみると、部屋の隅っこが糞で真っ黒になっていることもあるらしい。ちょっとそれは嫌だ。
調べて、やっぱり飼わなくて良かったと思う半面、やっぱり寂しい思いもあった。だって可愛かったんだもの。また会えればいいな、とは思う。
今日で旅は終了になる。成果はあまりよくない。
帰りの道中で、大量の薬草を集めたけど、目的だった天使の毛髪はナシ。集めた薬草も、多くは街で買えるものだ。その金額はエノコアさんの護衛料よりも安い。お店を七日間も閉めていた分を差し引くと完全に赤字だ。
赤字は別にいい。そんなときもある。
今はそれよりも、天使の毛髪が入手できていない事実が問題だ。これでは依頼された薬を作れない。
注文に応えられないのは、私もお客さんも嬉しくないことだ。
なんとかしなければ。魔法薬好きとして、この魔法薬は作れません、は口にしたくない。そう意気込んだ所で、材料がなければ薬は作れない。
天使の毛髪をなんとかして入手するのだ。それが最も幸せになれる方法。
しかし天使の毛髪を探すのは難しい。時間が足りない。
明日はお店を開ける。今回の旅でお店は長い休みになった。これ以上休みはつなげたくない。
フィアノさんに誘われたお祭りの準備も進めないといけない。
もう豊穣の月に入った。お祭りは近い。参加すると言ったのに、何も出来ていませんはちょっと恥ずかしい。
んー考えてみるとやっぱり、天使の毛髪を探す時間がまるでない。それでも探さないと。薬屋としての沽券に関わる。