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第三話

「チウ爺、あの子は?」

「何とか出血は止まった。意識はまだ戻らないが、命に別状はなかろう」

 ユラノはその言葉を聞いて、ほっとする。

 チウ爺はユラノたちフリジア警備隊の面々がいつも世話になっている医者だ。年齢は三十歳後半、けして老いてはいないのだが、その容貌――顔の下半分を覆う豊かな髭、そして髪。その多くが白髪となっている――があまりに老け込んでいるので、爺と呼ばれている。

 医務室の扉を閉め、アカリのものだろう血がついた白衣を脱ぐと、チウ爺はどっかりと椅子に腰かけた。そして深く息をつく。

「見た目は酷いものだったが、スレイヴの吸血態による傷だったのが幸いしたな。あれは血はたくさん出るが、傷自体はそれほど深くない」

「でも、チウ爺は流石だね。……あの子、血の恋人なんだよね」

「ああ、そうだな……」

 チウ爺はやや、苦々しい表情になる。

「俺でも、厳しいかもしれん」

「どういうこと? 血を止めたのはチウ爺でしょ?」

「いや、あの子はいつも自分用の止血薬を持ち歩いてるんだ。どうやって作ってるのか知らないが、これが素晴らしい効き目でな。俺も作り方を聞きたいくらいだ」

 そう言ってチウ爺は少し寂しげに笑った。

「まあ、でも……あの子が助かって、よかったよ。ありがとう、チウ爺」

「なに、目の前で死にかけてる奴がいたら助ける。それが医者というものだ」

 頼もしい医者の存在に、ユラノは心の底から笑顔で頷く。

「あの子の様子、見てもいい?」

「構わないが、静かにな」

「うん」

 ユラノは静かに扉を開け、医務室に入った。

 開け放たれた窓から風が吹き込み、カーテンがそよいでいるのが目に入る。やわらかい夕陽。その下、二つある寝台の内、ひとつに人が横たわっている。

 目を閉じて眠っている、真っ赤な髪の少女。顔色が悪い上に寝息が薄く、どきりとする。

 彼女は、ユラノが守り切れなかったから酷い怪我をしてしまった。布がかかっていて見えないが、きっとその体は包帯に覆われているのだろう。

 もう少し、僕がしっかりしていたら――。プリスは仕方ないと言ったが、それでもそう考えてしまうのを止められない。

 例えばプリスたちのように魔法が使えたなら、彼女のことを守れただろうか。

 怪我させることなく、安全に逃がすことができただろうか。

 この手に、もっと強い力があったなら……。

「ユラノ。ここにいたんだ」

 ふと聞こえた小声に振り返る。そこに居たのは白い長髪、薄い翠色の眼をした少女。

「リンヤ。今戻ったの?」

「うん。街中に残ったスレイヴが居ないか、見回りしてた」

「そっか、お疲れ様。怪我なかった?」

「わたしは大丈夫だよ。一番安全なところにいるもん。……それより、ユラノ、左腕」

「ああ、これは大丈夫。チウ爺に診てもらったから」

 ユラノの左腕には包帯が巻かれている。先ほどの戦いでスレイヴに負わされた傷だった。

「そっか……うん。大丈夫そうで、よかった」

 リンヤは心配そうな顔から一転、安堵の笑みをこぼす。

「あっ、そうだ。プリスちゃんが呼んでるよ」

「隊長も戻ってきたんだ。分かった、行くよ」

 ユラノは去り際、ちらと赤い少女――アカリを見た。その瞬間、リンヤに手を掴まれる。

「早く、いこ」

「あ、分かったって。そんなに急がなくても」


 四層区旧東門におけるスレイヴ群の襲撃事件は、プリスとミオの参戦によって速やかに終結した。この事件は結果的に死者こそ出なかったものの、多数の軽傷者と十人を超える重傷者を出した惨事として、街の住人たちを恐れさせることとなった。

「……という訳で、四区東部は完全閉鎖。三区東門もそれに伴って封鎖、ってことになったよ」

 ユラノたちは警備隊舎の食堂、兼会議室として使われている部屋に集まっている。事件の顛末と、それに伴う決定事項をプリスから聞くためだった。

「あそこ閉鎖するんだ。……っていうか、ミオとカイは?」

 出席者は隊長のプリスとユラノ、リンヤ。また隊員ではないのだが、ついでだからとチウ爺も同席している。

 他、プリスの血約者ブリーデであるミオと、カイという少年を加えた五名がフリジア警備隊の全隊員なのだが、今この場に彼らの姿はなかった。

「ミオもカイも夕ごはんの支度。カイにはミオから話すからいいの。で、四区の閉鎖だけどね」

「あ、うん」

「前々からそんな話は出てたんだよ。あそこの廃墟群、小さな子どもたちの遊び場になってたからね」

「ああ――」ユラノは納得がいった。「あの女の子」

「そう、ユラノが遭遇した子ね。隠れんぼでもしてたんじゃないかな」

「じゃあ、あの赤い髪の子も?」

 一緒に遊んでいたのだろうか。やけに攻撃的な目付きと口調だったが、女の子に対するときは優しげだった。

「いや、アカリのことは知らない」

 プリスは否定する。アカリという名を口にする瞬間、妙に素っ気無い口調になったのが気になった。問い質そうかとも思ったが、そうする前にチウ爺が口を開く。

「あの子はどうも、ときどき街の外に出ているようだな。そのときに四区東部を通っていたのかもしれん。あそこから出れば、見咎められることもないしな」

「まあ、それはともかく」

 プリスは半ば強引に話を進めた。

「今回みたいなことがあると危険だから、四区東部は完全放棄。今回破られた四区の東門も、昔一回破られたところをまたドカンだったからね。直してもまたやられるかもしれないし、というかみんな安心できないだろうし、だったらいっそ無傷な三区の門を強化しようっていう話になったわけ」

「質問」リンヤが手を挙げる。

「はい、リンヤ」

「子どもたちは、どうやって四区に入ってたの? 三区の門からは出られないよね?」

「うん。答えは単純で、壁に穴が空いてたのね」

「なるほど」

「だから明日、壁の穴を塞ぐ作業をするよ。これはみんな、あ、チウ爺は別だけど。みんなにも手伝ってもらうから、あとでよろしく」

「俺だって別に、手伝っても構わんぞ」

「チウ爺が怪我したら誰が怪我人診るのよ。自重してよ。若くもないんだし」

「……お嬢に言われたら黙るしかないな」

 親子ほどに年の離れた二人のやりとりに、ユラノとリンヤの両名苦笑。

 そこで厨房からミオがやって来た。おっとりした声で言う。

「はい、ご飯できましたよ」

「よし、話はひとまず以上! ご飯にしよう」

 プリスの一声で、ユラノとリンヤは会議室を食堂にするために動き出した。すなわちテーブルにクロスをかけ、食器を用意し、プリス専用の椅子を部屋の隅から持ってくる。

「じゃあ、俺は一度帰るぞ」

 腰を上げたチウ爺に、ミオが言った。

「チウ爺の分もありますよ?」

「いや、あいつらが待ってるからな。すまんが、また今度だ」

「相変わらず家族思いの親父さんのようね。いいことだ」

「おう」

 片手を上げての挨拶の後、チウ爺は出て行った。

「……あれ、チウ爺帰っちゃったんだ」

 そう言いながら食堂に入って来たのは、やせ気味の体つきをした少年。中性的な顔立ちをしていて、ひらひらした微妙な少女趣味のエプロンが妙に似合っていた。彼の手にも盆があって、夕飯が山盛りになっている。

「まあ、いつものことだよ……というか、家族放っぽってこっちで食べる、なんて言われたら逆に心配しちゃうしね」

「確かに、そうだね」

 そう言って少年――カイは微笑む。少しだけ頬を緩ませる、静かで穏やかな笑みだった。

「手伝うよ、カイ」

 ユラノはカイの持っていた料理を受け取って食卓に並べていく。リンヤもミオを手伝う。そうしてすっかり支度が整うと、みなそれぞれの席についた。

「それじゃ」

 プリスがわずかばかり佇まいを正し、食事の始まりを告げる。

「今日は大変なことがあったけど、みんな無事に揃って食事ができることにまず感謝を。そしてこれからわたしたちの一部になる、動植物たちの聖なる血肉にも感謝を。いただきます」

 プリスが略式の祈りを捧げると、他の四人もそれぞれに「いただきます」と唱和した。

「さあ、食べるぞー」

 まずプリスが、専用の椅子――座高が高く、足をかけるための横木がついている子ども用のもの――から身を乗り出し、食卓の中央に山盛りになっているニンジンや干しぶどう入りの青菜サラダに手を伸ばす。

「ミオも今日は、いっぱい食べないとね」

「うん。私はこれ」

 ミオの前にあるのは鶏のレバーソテー。量が尋常ではなかった。他の四人の前にも鶏肉のソテーがあったが、ミオのものは少なく見積もっても二倍以上。それを楚々と切ってはしずしずと口に運んでいる。

「ミオは相変わらずだね……。感心するような、うらやましいような。あ、ユラノ、そこの胡椒とって」

「はい」

 リンヤはほうれん草の卵とじに胡椒をふりかける。軽快な調子。彼女はいつも、そうやって楽しそうに食事をする。

 ただし好き嫌いが激しい。

「……」

 しかもより分けたピーマンなど苦い系の野菜を、無言でユラノの器に載せてくる。そして目が合うとにっこり笑うのだ、「今日もよろしくね」と。ユラノは苦笑いしつつそれを食べる。

 カイは静かだ。あまり自分から何かを話し出すことはなく、聞き役でいることが多い。何か訊ねられればはっきりと答えるので、特に話すのが苦手というわけでもない。

 いま食卓にのっている夕食は、たいてい彼の作だった。そら豆のスープ、バスケットいっぱいのパン、野いちごやオレンジなどのフルーツ……今日はいつもと比べても豪華だった。プリスが言うところの「大変なこと」があった日には、たいていこんな風に食卓が華やぐ。警備隊の中でただ一人吸血鬼と戦うだけの力を持たないカイは、みんなへのせめてもの貢献といって炊事洗濯といった家事に精を出しているのだ。

 いつもの和やかな食事風景。

 ユラノはこのとき、とても落ち着いた気分になる。みんなと一緒に食事ができることをとても大切なものに感じている。

 仲間のようでもあり、家族のようでもあり、そのどちらとも少しずつ違うような気もする、うまく言えない関係の五人。ただ少なくとも、こうして食事を採っているときは、まるで家族のようだなと思う。

 それはもう、ここにいるみなが失ってしまったもの――

 この五人はみな、もう、身寄りを亡くしてしまっている。


「ねえ、プリスちゃん。『壁の中』の用事、どうだった?」

 みんなすっかり満足ゆくまで食べ、食後のホワ茶を楽しんでいると、リンヤがそんなことを言った。

「ああ」

 自分用の椅子に座って足をぷらぷらさせ、ミオと干しぶどうの食べさせっこをしていたプリスは、思い出したように席を立った。そして部屋の隅に置いてあった麻袋からそれを取り出す。

「ばっちり。二人分」

 プリスは大事そうに、それを卓の上に並べた。

 それは、二組の血約具――儀式短剣と、血約指輪。

「うわぁ……」

 リンヤが感極まったような声をあげる。瞳がきらきらと輝くようだった。

「これが……」

 ユラノも湧き上がる興奮を隠せない。置かれた短剣と指輪をまじまじと見る。

 儀式短剣の刃渡りは二○セトメルほど。柄のこしらえはとても簡素で、普通の短剣とほとんど変わりがない。ただ、刃と握りの連結部分に大きな赤い石がはめこまれているのが大きな違いと言えた。

 しかし儀式短剣の最大の特徴は、そこにはない。

「ね、隊長。さわってもいい?」

「もちろん。それぞれ、ユラノとリンヤのために造ってもらったんだから」

 ユラノは鞘に納まった短剣を手にとり、そっと引き抜く。無垢の剣身が窓から差し込む夕陽を反射して、鈍く光った。

 その剣身こそが儀式短剣の最も特異な点。そこには溝が刻まれている。複雑精緻な紋様を描く、幅・深さともに三ミルメル程度の細く浅い溝――それは、血を流し込むための流路だ。

 儀式短剣は騎士のための魔法具。血約者ブリーデの血を取り込み、魔力を受けて魔法を発現するための媒体デバイスだ。溝に血が流れ込んだとき浮かび上がる紋様が、血に宿る魔力の利用効率を増幅する。この紋様こそ、儀式短剣の設計において最も重要視される点だった。

「魔力増幅流路は最新式のを使ったって鍛冶師(レッドスミス)が言ってた。わたしが使ってる三年前のやつよりも、いいやつだ」

「へえ……」

「指輪も最新式?」

 リンヤは指輪のほうに興味がある様子。彼女はどちらかというと、ブリーデ志望なのかもしれない。

「そっちは特に……。というか、指輪のほうはもうずっと前から、技術的には変わってないよ」

「あ、そうなんだ」

 少し残念そうに、それでも大事そうに、指輪をじっと見つめる。

 指輪のほうは、儀式短剣と同じ赤い石がはまっている以外に特別なところは見られない。短剣よりもつくりが凝っているのは、指輪がもともと装飾具だからだろうか。

「これで、いつでも血約できるのか……」

 ユラノは感慨深い思いでそう呟く。騎士。ブリーデと深い絆で結ばれ、強大な魔法の力によって吸血鬼どもを撃滅する者。……憧れだった。

「それについて、ひとこと言っておくよ」

 プリスが言う。少し、真面目な声音だった。

「血約するということを、簡単に考えてはだめだ。する前によく考え、覚悟を決めること」

「覚悟」

「そう、覚悟。相手を傷つける、覚悟」

 その言葉を聞いた瞬間、儀式短剣が重みを増した気がした。

「魔法を使うには、ブリーデの血が要る。その血を流させるのは、騎士の務めだ。自分じゃない、他人を傷つけるのだから――しかも、それが大切なブリーデなんだから、これはもう並大抵の覚悟でしちゃいけないってことは、分かると思う」

「……うん」

「はっきり言うと、わたしはきみたちに血約して欲しくないと思ってる。それでも血約するっていうなら、止めない。けど、その前に――」

 プリスの目が、据わった。

「――傷をつける練習くらいは、するべきだね。もちろん自分の体で」

 口元は笑っている。というより、口元しか、笑っていない。ユラノは少し冷たい汗が背筋を流れていくのを感じた。

「隊長も……練習、したの?」

「そんなこと、私が許しません」答えたのはミオだ。「それにプリスは上手ですから。練習する必要なんか、ないんですよ」

 微笑んで言う。

「魔力の変換効率も高いですしね。あんまり血を流さなくても、十分な魔力を取り出してもらえますから……」

「わたしたちの相性がいいんだよ。でも、ミオのためには、もっとずっと効率を高めないとね」

「今のままでも、私は十分ですよ」

 手と手を取って、二人は笑い合う。

「……これが、騎士とブリーデというものなのね……」

 いたく感心した様子で、リンヤがそう呟いた。

 その後リンヤは、ミオとブリーデ談義を始めた。ミオの付き添いとしてプリスも一緒。ブリーデにも傷つけられる覚悟が必要なんですよ、それはですね――ふんふん、それで――などと、話の断片が伝わってくる。

 ブリーデか……、とユラノは思った。騎士になるには相手がいる。それは誰になるんだろうと、短剣と指輪を見ながら、ぼうっと考えていた。

 血約。騎士にはなりたいと思うけれど、実際にすることを考えると、どこか遠い話だ。ただ、とりあえずは、この短剣と指輪を肌身離さず持っていようと思う。お守りのようなもの――これを持っていると、何だか心強い気がしてくるのだった。


 そうやってしばらく話しこんでいると、廊下のほうで物音がした。

 音の主が姿を現す。食堂の脇を通って建物の出口へ向かう廊下。赤い髪、青白い肌を粗末な服に包んだ少女――アカリだった。ユラノは反射的に席を立つ。

「だめじゃないか、まだ寝てないと」

「……うるせえな」

 気だるそうに言い返す。顔色が悪い。少し汗もかいているようだった。やや乱れた袖口から、血のついた包帯がのぞく。

 アカリはそのまま出口のほうへ歩いていく。ユラノはその後を追った。

「だめだってば。チウ爺に診てもらわないと」

 言っても止まらない。仕方なく、ユラノはアカリの肩に手を伸ばした。

 彼女は出し抜けに振り返る。きっとユラノを睨みつける。鮮烈な赤い瞳が、よく見えた。瞳の輪郭は、少しだけ、曖昧に揺れていて――

「……うるせえって、言ってんだろ!」

 物凄い剣幕で怒鳴られた。反射的に手を引っ込める。

 カイも食堂から出てきた。

「アカリさん、酷い怪我だったんだから、もう少し休んでいってもいいんだよ?」

 アカリの視線がカイに移る。

「一晩くらい……」

「あたしは帰る。こんなとこで油売ってる暇はねえんだ」

「でも」

「……治療してくれたことには感謝する。ありがとう。じゃあな」

 ほとんど棒読みの礼を述べると、アカリは今度こそ出ていった。

 ユラノはしばし呆然と、閉まった扉を見つめていた。食堂に戻ろうかと思う。だけど。

 血の気が失せた顔。覚束ない足取り。折れてしまいそうに細い手足。何より、頼りなく揺れる真っ赤な瞳が――とても、心に、引っかかる。

 気がつけば扉の取っ手に手をかけていた。

「あっ、ユラノ!?」

 壁の陰からこっそり様子を伺っていたリンヤが驚いて声をあげる。

「やっぱり放っておけないよ! せめて送ってくる!」

 そう言うと、ユラノはアカリを追って外へと駆け出した。


「ユラノ……、なんであんなに必死なんだろ」

 リンヤはつまらなそうに呟いて、食堂の自分の席に腰掛ける。するとプリスが口を開いた。

「……放っときなよ」

 素っ気無い口調。少し俯いているので、リンヤからは表情が見えない。

「でも、あの子……血の恋人なんでしょ? だったら」

「あんまり、関わり合いになるべきじゃない、って?」

「うん」

「でも」カイも戻ってきて、リンヤの隣に腰を下ろす。「ぼくはあの子がそんなに悪い子には見えなかったけど。血の恋人って言ってもね」

「そう? わたしにはかなり悪く見えたけどなぁ。いきなり『うるせえ』って」

 リンヤはそう言ってアカリの口真似をする。カイは少しだけ、笑った。

「口はかなり悪いみたいだけどね。でも、雰囲気はそんなに嫌な感じじゃなかったと思うよ」

「分からないなぁ。ユラノもカイも騙されてるんじゃないの? あの子かわいいからね」

「……」カイは黙って、リンヤの顔を見た。

「……ん? どしたの?」

 怪訝そうに問われて慌てて目を逸らす。そして喋り出した。

「う、ううん。……ぼくにはむしろ、血の恋人の何がそんなに悪いのかなって思うよ」

「血の恋人は、聖性の浪費者。だからだよ」

 答えたのはプリスだった。ただ、彼女はまだ俯いていて、答えた声も棒読みのようだった。

「確かにそう言う人がいるのは知ってるけど……でも、それってそんなに悪いことかな?」

「カイ、あんまりそれ、他の人に言わないほうがいいと思うよ……」

「あ、うん。一応その辺りはわきまえてるつもり」

「……どうせ、すぐ戻ってくるよ」

 プリスの口調は素っ気無い。

「あの子がああなのは、血の恋人だってことだけが理由じゃないからね」

 プリスはまだ俯いている。

「だから、気にすることはないよ」

 二人は顔を見合わせる。

 ミオはそんなプリスを、心配するような表情で見ている。

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