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第十話

 アカリの言葉が心に刺さる。

 ある程度は予想していたことだ。けれど、それでも痛い。呼吸が乱れてうまく話せない。体の感覚が半分くらい、どこかに行ってしまったような気がした。ユラノが驚いたような顔をしている。きっと信じられないのだろうと思う。

 だけどアカリが言っていることは、本当だ。確かに言った。血の恋人は穢れていると。アカリと出会った三年前は、プリスは今よりずっと古い考えに囚われていたのだ。そのせいで、当時一緒に暮らしていたアカリとキララを追い出す結果になってしまった。

「……確かにわたしは以前、そう言った。だけど、今は違う。そんなこと考えてない。あのときのわたしは、間違ってたんだ。今は――アカリを、本当に、守りたいって思ってる」

「信じられるかよ」

 たった一言で切り捨てられた。アカリは険しい目付きを一寸も緩めない。

「もう、裏切られるのはたくさんだ。またあんな想いをするくらいなら、ずっとキララと二人で居るほうがいい」

 頑なだった。

 つらかった。アカリが頑ななのは自分のせいなのだ。初めにアカリを裏切った自分が一番悪いのだ。その事実が、とても苦しい。

 だが、アカリのほうがずっと苦しい想いをしてきたはずだ。最低限生きていくだけの助けしか得られず、見棄てられた地にたった二人で暮らすことがどれだけ苦しいか――プリスには想像することしかできない。

「今更お前が何をするって言うんだ。もうあたしたちが街に戻って暮らすことなんてできない。キララの病気も治らない。一体、どうするって言うんだよ。お前に、答えられるのかよ……」

 その哀切な訴えに対して、プリスは真正面から答えることはできなかった。おそらくそれは誰にとってもできないことだ。血の恋人に対する偏見を無くすことはできないし、キララの病気の治し方も分からない。

 誰にも直接アカリを助けることはできない。しかし、それならば――

「――わたしはせめて、きみの身にこれから迫る危険から、きみを守りたい」

 それが精一杯の答えだ。

 じっとアカリの目を見て言った。見返すアカリの視線が怖くて、目を逸らしたくなるのを必死で耐えた。本気だということを示したかった。自分が犯した間違いから目を背け、今までずっと逃げてきた。その過ちを、償いたい。言葉だけでは足りないかもしれない。態度だけでも足りないと思う。だからその両方で、わずかな想いだけでも伝えられるように。

「確かに一緒に暮らすことはできないかもしれないし、キララの病気も治せない。だけど、きみたちの心の支えにはなることは、できると思う。きっと、少しずつでも……」

「心の、支え?」アカリの表情が怒りに燃え上がる。

「どっ、どの口で! あたしが穢れているからキララが病気になった、とまで言った奴が!」

 ユラノが更に大きく驚いたのが気配で分かった。

「確かに、言った……けど、もうそんな風には思ってない。後悔してる。償いたいんだ……」

「ハッ……どうだか」

 アカリは強く顔を歪めて吐き出すように言った。その仕草が、またプリスを傷つける。

 伝わらないのか。遅かったのか。もう修復できないところまで来てしまっていたのか。

 いや、きっと、違う。単にまだ、足りないだけ。それなら――

「……ごめん」

「――なっ……」

 アカリも、ユラノも、リンヤも――ミオでさえもが、驚愕の声を漏らした。

 プリスはひざまづき、地に手をついて深く頭を下げていた。地面に擦るほどに。

「お前……なっ、」アカリは激しく狼狽する。

「何してんだよ、やめろ、頭上げろよ!」

「本気なんだ。間違ってたって思ってるんだ……」

「何なんだよ、お前……なんで、そこまで」

 ユラノは呆然とプリスの様子を見詰めている。リンヤが駆け寄ろうとしてミオに止められた。アカリもどうしていいか分からない様子で立ち竦んでいる。怒りの色はすっかり消え失せ、ただ困惑だけがその顔に浮かんでいる。

 ――そのとき、その場の誰もが驚き、プリスの姿に注目していた。

 だから初めに気がついたのは顔を上げたプリスだった。

 それはすでに、アカリのすぐ背後に浮かんでいた。

「あはッ……!」

 二束の白髪が風になびき、瞳は大きく見開かれ、口元にはまるで壊れた三日月のような歪んだ笑顔。ぼろぼろになったはずの衣服も、穴だらけになった躯も、すべてが元通りになっている。――片腕に下げた、ぬいぐるみの骸を除いて。

「吸血鬼!」

「――捕マエたぁ!」

 ナイティ・ミューレはアカリの腕をしっかりと掴み、間髪入れずに強く引く。吸血鬼の凄まじい力が抵抗などまるで無視してアカリの体を吊り上げる。アカリの顔が痛みに歪んで、恐怖に染まる。ミューレは狂ったように笑った。

「あ、アハ、ハハ、アハハ! 血の恋人、捕まえたァ……! ――ぁ?」

 しかし、急にその動きが止まる。ミューレは教会の入口に、じっと視線を向けた。

 つられてみなが、そちらを見る。

「キララ……っ?」

 アカリが信じられない、というような声を漏らした。

 確かにそこにはキララがいた。捕らわれた姉に対する心配からか、それとも吸血鬼に睨まれた恐怖からか、目をいっぱいに見開き固まっている。アカリが叫ぶ。

「来るな! 逃げ……っ!?」

 言葉半ばにミューレが飛んだ。腕が強く引っ張られる痛みからか、アカリの言葉が途切れる。

 ミューレはプリスたちの頭上を越え、あっと言う間にキララのもとへ――

「ひっ――」

 着地。腕を掴まれたままのアカリが強く地面に打ち付けられる。そのまま地面を引き摺られて、アカリは苦悶の声を漏らした。

 キララは蒼白な怯え切った顔で首を振り、自分の体を抱くようにあとずさった。激しく震えている。現実から逃避するかのように、額を、片手で押えた。

 ミューレがキララに近付く。

 そしてじっとキララの顔を見つめ、壊れたような笑みを更に深めて、高らかに叫んだ。

「レーヴァ様!」

 ――全員の動きが、止まる。

(……何を言っている?)

 プリスは訝った。ミューレはキララを見つめている。あの吸血鬼は、確かにキララに向かって叫んだのだ。彼女の、主の名を。

 キララは反応しなかった。額を押えて俯き、もう片手で自分の体を抱いたまま、動かない。

「レーヴァ様……?」

 ミューレは少し迷った後にぬいぐるみを手放し、空いた腕でキララの腕を掴んだ。キララはされるがままだ。

「レーヴァ様、ボクやったよ、血の恋人捕まえたよ!」

 掴んだ腕を振りながら、興奮気味にミューレは語る。その動きに合わせてキララの体ががくがく揺れる。

「……てめっ、キララから手ぇ放せ!」

「ウルサイな。血の恋人は黙ッテろ」

 ミューレはアカリに頭突きをした。一声呻いてアカリは黙る。彼女の額が割れ、血が流れて白い肌を赤く染めた。

 キララは少しだけ、頭を傾けた。アカリの様子を見たようだった。プリスは違和感を覚えた。

 ――なぜ、キララは動かない?

 吸血鬼に話しかけられた上に腕を掴まれているのに、あの無反応さはどこかおかしい。

 もっと慄くなり、喚いて逃げ出そうとしてもいいはずだ。いや、初めは確かにそんな態度を取っていた。いつから今のようになった? ……いつのまにか、体の震えも止まっている。

 あれではまるで――冷静、そのもののようだ。

 その想いを証明するかのように、キララが口を開く。

「……お姉ちゃんを」

 それは、確かにキララの声だった。だが。

「お姉ちゃんを、傷つけるな」

 明らかに、違っていた。言われたミューレはびくりと身を竦ませる。

「コ、コレは……その、仕方ナク」

「うるさい」

 冥い声だ。……キララの、聞いたことのない声。

「お姉ちゃんを、傷つける奴は――」

 キララはミューレの目の前に掌を突き出した。

「消えろ」

「……え?」

 ミューレは半分笑ったまま、キララの掌を見返す。

 次の瞬間、ミューレが消えた。 

 まるで最初からいなかったかのように、わずかに腐ったような香りだけを残して――少女吸血鬼は跡形もなく消え失せた。彼女の持っていたぬいぐるみの骸だけが残る――キララはそれを見ると、ゆっくりと拾い上げて、同じように塵に返した。

 俯いたまま、平板に呟く。

「お姉ちゃんを傷つける奴は、許さない」

 そして、顔を上げた。そのかんばせは。

 肌が、口元が、そして瞳が――もう人ならぬものへと、変貌していた。

 死人の如き冒涜的に蒼い肌。人の肌を突き破り、血を啜る為の長大な犬歯。そして――

「吸……血、鬼?」

 プリスが呆然と呟く。

 キララの両目には、まさにその証――赤血色の禍々しい光が灯っていた。


 ――開いた。ずっとそこにありながらも閉ざされていた扉が、しもべ《ナイティ》の接触によってこじ開けられた。キララに融けて眠っていた王の記憶が呼び起され、血の流れに乗って解放される。

 何もかもを思い出した。三年前に騎士に追い詰められ、破滅寸前に至ったレーヴァが何をしたのか。その結果、自分の身に何が起きたのか。

「ロード・レーヴァ……なのか?」

 プリスが問う。キララは今や、それにはっきりと答えることができる。

「違う。わたしはレーヴァじゃない」

「それなら……、その眼は一体……それに」

 プリスは繋血を維持している。いつでも魔法を放てるよう、短剣を油断なく構えたままだ。

「今の力、ナイティを消したのは、〈塵化〉――ロード・レーヴァの操る魔法じゃないのか」

 困惑の空気。プリスだけではなかった。誰もが何が起きたのか、把握できないでいる。

 全てを理解しているのは、唯一、キララだけだ。

 キララはプリスの問いに答えず、アカリのそばにしゃがみこんだ。

「……痛そうだね。お姉ちゃん」

 そっと額の傷に手を添える。いまだに血が流れ続けるアカリの傷に。

「でもね……これからは、怪我してもすぐに治してあげられる」

 触れた場所からわずかに、赤くどろりとした光が漏れる。すると額の傷がきれいに消えた。

「もう、薬なんて形式を通る必要はないよ」

 アカリは呆然とその様子を見ている。プリスも同じように呆然とした声で、さらに問う。

「傷を、治す……? ロード・レーヴァにはそんな力が?」

「そう」

 キララはゆらりと立ち上がり、プリスを振り向いた。

「わたしの――レーヴァの力は、あなたたちが言うような〈塵化〉とは少し違う。壊すだけじゃなくて、癒すこともできる力――〈分解と再構成〉。それがわたしの、本当の力」

「再構成……?」

 プリスの中で、色々なことが繋がる。ミューレの力。大地を剥がして杭にしていたあれは、すなわち大地を分解して杭に再構成していたのだ。

「でも、分からない。どうしてキララにそんな力が」

「レーヴァは、わたしの中にいたの。三年前から」

「キララの中に、いた……?」

「わたしの、血の中に」

 プリスは思考し――

「まさか」

 やがて、答えに辿り着く。

「自分を分解した、のか……?」

「そう。騎士との戦いで破滅しかけたレーヴァは、自分を分解して血になった。そしてわたしの中に溶けて隠れたの。傷が癒えるまでの時間を稼ぐために」

 アカリが口を挟んだ。

「キララ、じゃあお前は、吸血鬼なのか……?」

 キララを見上げる目は、まるで悪夢を見るようだった。対照的に、キララは微笑んでいる。

「違うよ、お姉ちゃん。わたしはキララ。吸血鬼でも、あるけれど」

「本当なのか。本当に、吸血鬼に……なんでだ。なんでよりにもよって、キララだったんだ」

「それは、わたしがお姉ちゃんの妹だったからだよ」

「……何だって?」

「お姉ちゃんが、血の恋人だから」

 アカリは絶句する。顔色が失せる。

「あたしのせい、だっていうのか?」

「お姉ちゃんのせいじゃない。お姉ちゃんのお陰だよ」

「何がだよ。キララはそんなになっちまって……」

「本当は、わたしの心はレーヴァに殺されてしまうはずだった。けれど、そうはならなかった……お姉ちゃんの血が、とても強かったから。お姉ちゃんが、わたしの心を守ってくれた」

 キララはそっとアカリの頬に手を添える。

「わたしは吸血鬼になってしまった。けれど、お姉ちゃんがいれば――血の恋人の強い魔力があれば、もう血を吸う必要なんてない。お姉ちゃんはいてくれるだけでいいの。なぜなら、わたしたちは、血が繋がっているんだから」

「あたしがいれば……血を吸わなくてもいい? じゃあ何も、問題、ないのか?」

「そう」

 キララは微笑む。

「何も問題なんかない。これからは、二人で幸せに過ごしていける」

「本当に?」

「うん」その返答に、アカリの表情がわずかに緩んだ。

「もう、辛い思いをすることもない。わたしの力と、お姉ちゃんがいれば、もう――人の中で暮らしていく必要なんかない」

「……え?」

「二人きりで、暮らしていける」

 微笑んで、言う。心の底から自分の言葉の真実を疑っていない顔だった。

「どこか遠いところで、誰にも関わらずに生きていける」

 アカリは――動かない。

「食べ物だって取ってきてあげる。わたしが食べさせてあげる。今まではわたしが世話してもらってたけど、これからは逆。恩返しだと思ってくれればいいよ」

 キララは迷いない瞳、威風溢れる態度でアカリを見下ろし、手を差し伸べる。

「行こう、お姉ちゃん。これからはずっと、一緒だよ」

 アカリは地面にへたりこんだまま、じっと差し出された手を見つめた。

 目が泳ぐ。何度かそっとキララの目を見て、すぐに逸らした。手を取ろうとは、しない。

 キララは焦れた。

「お姉ちゃん」

 少しだけ強く呼びかけて、自分からアカリの手を取ろうとする。

「――待って!」

 キララは動きを止めた。

「……ユラノくん」

「行っちゃだめだ」

「どうして?」

「ずっと二人きりなんて……。何も問題がないなら、僕らと一緒に暮らせばいいいじゃないか」

「だめだよ」

「どうして……」

 キララの心に苛立ちが生まれる。何も分かっていない言葉だ。

「わたしは吸血鬼だから」プリスとミオを見る。「騎士は吸血鬼を、放っておかない」

 でしょう? と視線で問いかける。答えはない。

「繋血だって解いてないし。……やる気満々だよね」

「隊長!」

 悲痛とも言えるユラノの声。それでもプリスは繋血を解かない。

「……わたしが繋血を解いても、キララはアカリを連れていくのをやめないだろう」

「もちろん」

「わたしもユラノと同じで、アカリを連れて行かせたくない。だったらもう、手段は一つしかないじゃないか」

「そんな!」

「どうしようもないんだ、ユラノ。キララは吸血鬼になった。しかもただの吸血鬼じゃない、王の力を持っている」

「まだ決まったわけじゃ」「わたしたちが!」

 プリスは声をあげて、ユラノの言葉を遮った。

「……わたしたちが見逃しても、他の騎士たちが放っておかない。だったら」

 ミオの手を握りしめ、言う。

「せめて、わたしたちが、……やる」

 断固たる態度だ。

 キララは思う――これが、騎士の姿だ。吸血鬼の狩り手、天敵、けして相容れない者。血の因縁で縛られ運命付けられた敵同士。そう、プリスの言う通り。騎士は吸血鬼を見逃さない。

「これで分かったよね、ユラノ君」

 ユラノは愕然とした様子で立ちすくんでいる。何も分かっていない愚かな人。どうしていいか分からないようだ。

「わたしたちは解り合えない。騎士は吸血鬼と出会ったら、戦わずにはいられないようになっているんだよ」

 キララはアカリに手を差し伸べる。

「ねえ、お姉ちゃん、一緒に行こう。……来てくれるよね?」

 アカリは、やはり動かない。手を取ってくれない。

 自分から手を伸ばした。

 アカリははっとして――身を引いた。

「……お姉ちゃん?」

「お前、本当に……キララなのか?」

 空白。思考が止まる。笑顔がひきつるのが自覚できた。

「なに、言ってるの……見れば分かるでしょ? ……ちょっとは変わっちゃったけど」

「キララはずっと普通に暮らしたいって思ってた。二人だけで暮らそうだなんて……そんなこと言う子じゃなかった」

「だって、わたし吸血鬼になっちゃったし……」

「だからって、いきなりたった二人だけでなんて、普通じゃない」

「じゃあこの人たちと一緒に暮らすって言うの? きっとわたしを殺しに、騎士が来るよ。返り討ちにすればいいかもしれないけど、お姉ちゃんだって巻き添えに――」

 ――アカリが、さらに後ずさった。

「……やっぱりお前、おかしいぞ」

 硬くて少し震えている、声。異物を見るような目。怯えている? 誰に? わたし?

「殺すとか返り討ちにするとか……キララは簡単にそんな言葉口にしない。お前は、……お前は、キララじゃ、ない」

 お前は、キララじゃ、ない。

「……お姉ちゃん」

 すがるように手を伸ばす。払われた。

 はっきりと。

 拒絶。拒絶された。お姉ちゃんに。拒絶、されてしまった。

「……へ、へへっ」

 全然嬉しくも楽しくもないのに、なぜか笑えた。笑おうとなんて思ってない。どうしてわたしは笑っているのだろう――お姉ちゃんに拒絶されたということは、つまり、わたしはひとりになってしまったということなのに。お姉ちゃんに捨てられた、ということなのに。

 どうしよう。

 なんで?

 ねえお姉ちゃん、なんでなの?

 ――ああ、

 そっか、……分かった。

 お姉ちゃん見てるもんね。ユラノくん。プリスちゃん。みんなを。そっちがいいんだ。わたしよりそっちがいいんだね。分かった。どうすればいいか分かった。いや、最初から分かってた。答えはずっと頭のどこかで理解していたはずだった。知らないふりをしていただけ。聞こえないふりをしていただけ。

 だって。こんなに激しく、訴えかけているんだから。

 寒気がする。頭が痛い。痛むほど、激しく、教えてくれている。きっとこれはわたしの中に溶けて混ざった吸血鬼レーヴァの記憶。生きるためにどうすればいいのか、教えてくれている。

 騎士がいるから、わたしたちは安心して暮らせない。奴等は吸血鬼と見れば襲いかかってくる、天敵。だったら。

 やられる前に殺せ。

 消される前に、みんな殺せ。殺してしまえ。騎士に与する者も一緒だ、殺せ、鏖殺しろ。安息のために、鏖殺しろ。鏖殺しろ。鏖殺しろ――。

「……うっ……」

 そうだね……。

 みんな、死んじゃえばいいんだ。

 ……まずは誰……? いちばん悪い人がいい。プリスちゃん? 違う。あの子はずっと前、わたしたちを一度見捨てた。お姉ちゃんが一緒に来てくれないのは、あの子のせいじゃない。

 だったら、そう。いちばん悪いのは――

 お姉ちゃんに誰かと触れ合う温かさを思い出させてしまった、あの人。

 ユラノくん。

 あなたが、いちばんだ――

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