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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第10話 限りなくブラックに近いグレー

 そうだ、じいちゃんの最期を見に行こう。


 三田村さんたちとの待ち合わせまで時間を持て余すと見越したオレたちは結局バスに乗るのをやめ、どこかの観光事業が打ち立てたキャッチコピーの如く、じいちゃんが辿った最期のルートを巡ることにした。


 まずは転落したと言われている歩道橋、そして遺体が見つかった桜花川(おうかがわ)の遊歩道を散策するコースだが、物見遊山のウキウキした気分とはだいぶかけ離れている。


「あそこが孝志(たかし)君が落ちた吾妻橋(あずまばし)歩道橋だ」


 真之助が指さした先には老朽化のため色褪せた歩道橋があった。元は若草色だろうか。塗装が所々剥がれ落ちていることも手伝い、冬を前にしたキリギリスのように痩せ衰え悄然として見える。


「私が三田村さんの背後から覗き見た調書によると」


 階段を上りきって見晴らしのいい場所まで来ると、真之助はにわかに立ち止まった。


「孝志君はこの先の階段を下りていたときに誤って足を滑らせ、頭を打ち付けたことになっているんだけど。真は何か気がついたことはない?」


 このときの真之助はすっかり名探偵気取りで言葉の端々が楽し気に弾んでいた。


 恐らく、オレのくさくさした気分を払拭するための心遣いなのだろう。そう解釈したオレは気乗りしなくとも真之助の名探偵ごっこに付き合ってやることにした。


 眉を寄せ、しかつめらしい表情を作り、「うーん」と唸りながら顎に手を当ててみせる。


「歩道橋がボロボロで歩くのが恐ろしいですね、名探偵殿」


 よし、我ながら上手い返しだ。オレはそっと拳を握る。今の切り返しが対真之助の反応として満点以上のデキだと確信したからだ。ところが、真之助の(しら)けた表情を見て、完全に滑ったことを理解する。


「名探偵殿って……子供じゃあるまいし、いきなり()()()遊びを始めるのはやめてくれるかな。こっちは事件解決のために真剣なんだ」


「オレはわざわざお前のレベルに合わせてやったんだよ!」


「だったら、『階段のあちこちに補修工事がなされているので警察が雨上がりの転倒死亡事故として片付けても不思議ではありませんね、名探偵殿』くらい言ったらどうかな」


「ごめんなさい」正論過ぎて()()の音も出ない。


「ま、いいよ」


 羞恥心から立ち直る隙を与えてくれぬまま、真之助は体をぐるんと反転させ、「ほら、見てごらん」と東の方向を指さした。


「私たちは今博物館から警察署を目指している最中だよ。崎山家も警察署も駅もここから東の方角にある。つまり、私たちは東に向かってこの歩道橋を渡っているんだ」


「だから?」


 真之助が何を言いたいのかわからずオレは顔をしかめる。


「三年前、孝志君が自宅から真を捜すためここまで来たということは、西へ向かって歩いたということ。ところが、どうかな。孝志君はこの先の下り階段から落ちているんだ」


「じいちゃんは西へ向かってここまで来たあと、途中で引き返して東へ戻った?」


「ご名答。孝志君は家に戻るために東へ向かったんだ。それと、もうひとつ」


 再び真之助の指が指し示した方へ視線をやると、オレは息を飲んだ。


 そこには──。


「博物館だ!」


 先程までオレたちがいた桜並木市立博物館の瀟洒(しょうしゃ)な建物が見える。


「この歩道橋(事故現場)と博物館は目と鼻の先にあったんだよ。豊原さんは限りなくブラックに近いグレーの存在だ」


「それじゃあ、豊原さんがファミレスでじいちゃんと待ち合わせたと言うのは」


「待ち合わせたのは本当だと思う。手帳にも『豊原に会う』と予定が組まれてあったからね。ただ、ファミレスで孝志君から電話を受けたというのは嘘かもしれない」


 首を一巡させてみたが、見渡せる範囲にファミレスの看板は見つからなかった。


「せめて孝志君の携帯電話が出てくればいいんだけど」


 腕を組み渋面を作った真之助に、今度はオレが謎かけをする番だ。


「なあ、三田村さんはじいちゃんの携帯電話が犯人に持ち去られた可能性があるって言ったよな。だったら犯人はそれを捨てなきゃならないってわけだろ。ここから一番近い証拠隠滅できそうな場所と言ったら?」


 ほんの一瞬考え込んだ真之助は導いた答えに頬を上気させた。


「桜花川!」


「ご名答。目指すは次の目的地、桜花川だ」


 じいちゃんの携帯電話が未だ現場に残っているとは本気で思っちゃいない。けれど何もせず腕をこまねいてはいられなかった。


 オレを探して歩道橋までやって来たじいちゃん。


 そこで何があったのかわからないが、来た道を引き返そうとしたところ、雨上がり滑りやすくなった下り階段で転倒し頭を強打した。


 携帯電話はその際、犯人に奪われたのだろう。


 桜花川の遊歩道でじいちゃんの遺体が見つかったのは、意識が朦朧とする中で犯人を追跡したからだ、と三田村さんは言ったが、歩道橋と博物館の距離を見ても、真之助が暗に言うように豊原さんがじいちゃんの転落死と一番近い場所にいると考えて間違いないだろう。


 絶対に捕まえてやるからな!


 オレは博物館の外観を網膜にしっかり焼き付けてから、じいちゃんの遺体が見つかった桜花川の遊歩道へ向かった。




 ──「死」は摩訶不思議なものだ。


 昨日まで元気にしていた人があくる日には呆気なく死んでしまった。


 なんて話はニュースやばあちゃんの口からよく聞かされる、日常であり非日常でもあり、取り止めのない話題。


 人々は、死について毎日といっていいほどよく耳にするくせに、自分とは限りなく遠い場所にあるものと強く信じ込んでいる。


 いや、それは望みだ。


 死をひどく忌み嫌うばかりに自分や愛する人とは遥か彼方宇宙よりも遠くにあって欲しい、他人事であって欲しいという、切なる儚い望みなのだ。


 だが、太陽が昇り沈むように人は生まれたからには必ず死ぬ。


 致死率100%の無情な世界に生きるオレたち。


 じいちゃんがそうだったように、命の灯はきまぐれな死神の溜め息にふっと吹き消され、ある日突然、いなくなってしまうのだ。


 そして、愛する人の死を目の当たりにした人は初めて懺悔をする。


 ああ、もっと優しくすればよかった。


 もっと一緒に楽しい時間を過ごせばよかった、と。

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