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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第9話 かっこいい大人

 帰りはバスを使って駅まで戻ることにしたオレたちは、博物館前のバス停で反省会を開催していた。もちろん主催者は真之助で、強制参加のオレは一方的にやり込められている。


「感情に任せて警察の情報をペラペラと豊原さんに喋っちゃうなんて、真は本当にバカとしか言いようがないよ。しかも、三田村さんが欲しがっている手帳の存在まで教えるだなんて、うっかりにもほどがある。捜査の妨害だ」


 一方的に辛辣に責められるのはどうも居心地が悪い。オレは真之助を反省会の主催者の座から引きずり下ろしてやろうと責任を転嫁する。悪びれず、堂々と。


「仕方ねえだろ。そもそも、オレに『しっかりしろ』とか言って発破をかけたのはお前だよな。あれがなければ、オレだってペラペラ喋らなかったんだよ。かっこつけちゃって、だっせえの!」


「ふん。豊原さんに一本取られてメソメソ泣いていたのは誰だったのかな。どうするのさ、豊原さんが犯人だったら。私が犯人だったら指名手配になる前に迷わず行方をくらますね!」

 

「そんな冷たいことを言わないで、何かいいアイデアのひとつや二つ出してくださいよ。真之助様」


 両手を合わせて拝む姿勢を取るが、真之助()は取り付く島もない。


「三田村さんに正直に打ち明けることだよ。生者の問題は生者同士が解決しなきゃならないんだ」


「食えねえの!」


 オレはベーッと舌を出したあと、勢いよく真之助から顔を背けた。不快感全開の態度はほとんど演出に近かった。内心は案外穏やかだったのだ。


『しっかりしろ、真!』


 じいちゃんを殺したのはオレだ──。


 豊原さんが仕掛けた自己嫌悪の罠にハマったとき、真之助から浴びせられた一言は確かにオレを救ってくれた。


 あの言葉がなければ、豊原さんに再戦を挑むことはなかっただろうし、一度は克服した死の誘惑に負けていたかもしれないのだ。


 守護霊はお付き人を元凶(危機)から守るだけではなく、日々を支えてくれている。


 そんな当たり前のことに改めて気がつき、オレは真之助を誇らしく思った。


「オレの守護霊すごいんだぜ」小さい子供が戦隊ヒーローのオモチャを自慢するかのように、会う人会う人に真之助を自慢して歩きたい。そして、いつかオレもこんなかっこいいヒーロー(大人)になりたい。


 そう思ったことは一生の秘密にしよう。もし真之助が知ってしまったら、天狗やピノキオなんかよりもドンドンと鼻を高く伸ばしてムカつくほどのドヤ顔を決めるに違いないのだ──……。

 

「電話だよ」


 真之助の横顔に固定していた視線をスマホに向ければ、三田村さんからの着信だった。


「何度か電話をくれたみたいだね」三田村さんは申し訳なさそうに言う。


「じいちゃんの手帳が見つかったんですけど」


「本当かい!」


 嬉々とした三田村さんに、オレはもっと申し訳ない声で事情を説明する。


「あのですね、手帳には複数の名前が書いてありまして、実はたった今、その中のひとりに会って来ちゃったり何だりしました……とか言ったらどうします?」


「……へ?」


 オレは豊原さんに会いに行った一部始終を漏れなく喋った。


「どうして、そんな無茶なことをしたんだ!」


 三田村さんの雷で鼓膜を貫かれる前に、オレはスマホから耳を離した。下手すれば、これまでの捜査が水泡に帰すのだ。三田村さんが怒るのも無理はない。容疑者になるかもしれない男に手帳の存在を明かしてしまった挙句、逃亡する機会を与えてしまったのだから。


 オレは取り落としそうになったスマホを握り直し、頭を下げる。


「ごめんなさい。取り返しのつかないことをしました」


「無茶なことはしないと約束したよね。その男が犯人なら、キミに危険が及んだ可能性もあったんだぞ」


「軽率でした……」


 自分のやらかした過ちの大きさに気落ちしていると、三田村さんの溜め息が吹き込まれた。


「ま、無事で何よりだよ。その……豊原という人物についてはこっちで調べてみる。で、通り魔がわかったっていうのは本当なのかい?」


「ええ、でもちょっと話がややこしくて何と説明したらいいのか」


 三年前の通り魔である五島翔(ごとうかける)は植物状態で入院中。さらに現在桜並木市を騒がせている通り魔は五島翔の守護霊だと正直に伝えたら、三田村さんはどんな反応をするだろうか。まず電話で話せる内容ではないし、話したところでにわかに信じてもらえる話でもない。


「取り合えず、警察署で手帳を渡してからお話します」


 すると、三田村さんが唸った。どういう訳か嬉しい感情よりも困惑が断然色濃く声に乗っている。


「悪いんだけど、今刑事部屋(ここ)に本部のお偉いさんが来ているんだよね。本当に面倒くさい人たちだから極力キミに会わせたくなくて。どこかで待ち合わせしないかい?」


「それじゃあ」


 脳裏に安藤さん行きつけの喫茶店「Cafe・cachetteカフェ・カシェット」がよぎる。


「Cafe・cachetteはどうですか。午前中は臨時休業ですけど午後からは通常営業らしいですよ」


「だったら、十三時に会おう」


 待ち合わせの時間が決まり、いよいよ電話を切るタイミングになって、三田村さんがボヤいた。


「安藤が今朝からいないんだよね。お陰で雑務も増えちゃってキャパオーバーさ」


「まさか安藤さんまで行方不明ですか?」


「縁起でもないことを言わないでおくれよ。あ!」


 どうやら安藤さんが戻ってきたらしい。再びスマホ越しに三田村さんの雷が聞こえる。いや、正確に言えば、涙声だから雷雨だろう。


「おい、安藤。今までどこに行っていたんだ!  こっちはキミがいない間大変だったんだぞ」


 ボソボソと安藤さんが何か言い訳をし、それから音声がブツブツと途切れ、ようやく電波が整ったときには電話口に安藤さんの気配があった。


「──もしもし、崎山クン」


 三文役者のように感情の乗らない単調な声がオレの名前を呼んだ。


「今日も三田村サンのおごりだから、遠慮なくランチセットをご馳走になるといいわ。デザートはケーキかタルト、ミニパフェからひとつ選べるから、崎山クン念願のフルーツタルトをオーダーできるわね。ちなみに本日のコーヒーはマンデリンだからホットもコールドも両方いけるわ。幸運ね、アナタ」


「は……はあ」


 三田村さんは仕事をサボると非難しがちな安藤さんだが、どうやら問題があるの安藤さんの方のようだ。

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