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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第5話 嵐の前の静けさ

 警備員にきつくお灸を据えられたオレたちは渋々病院をあとにした。


 坂本と成瀬さんのイチャラブを見せつけられたかと思いきや事態は一変、シリアスな別れ話に移行すると誰が想像しただろうか。


 日下部(くさかべ)さんと会うために病室に戻りたくても、坂本たちと顔を突き合わせたいとは思わなかったし、看護師や警備員にも警戒されている。後ろ髪を引かれる思いだが諦めるしかなかった。


「坂本と成瀬さんが恋人同士なのはわかったけど、あいつらと五島翔(ごとうかける)は一体どんな関係なんだ? なあ、今から真之助がひとりで病室へ行って日下部さんに話を訊いて来てくれよ」


「もののついでみたいなノリで、掟を破れるわけないじゃないか」


 勘弁してよ、と真之助が唇を尖らせた。


「私は職務と真面目に向き合うタイプなんだ。わざわざお付き人の傍を離れるような真似はしないよ」


「そうは言っても、真之助だって本音は気になるだろう? 五島翔と坂本と成瀬さんの関係」今度はオレが唇を突き出す番だ。


 なぜ三年前の通り魔である五島翔の病室に二人がいたのだろうか。


 坂本とオレは小学校来の付き合いで、互いの人となりばかりか、初恋の人の名前から好きな給食のメニューまで、充分すぎるほど理解していた。よく一緒に遊び、適度にいたずらもやった。坂本はどうか知らないがオレは親友のひとりだと思っていたし、オレたちの間にわだかまりも、後ろ暗いところも、遮る塀もなく、常に風通しがよかった。この間だってファミレスのバイトを紹介してくれたことに心底感謝しているのだ。まあ、面接の結果は散々だったが……。


 その坂本が交際している成瀬さんを使って平沢を脅し、友人Aのカバンに盗んだ財布を入れさせた。さらには無慈悲にも「嫌いになった」と成瀬さんに別れ話を切り出したのだから驚きだ。普段学校で見せる絵に描いた優等生の姿とは異なる冷たい言動は目に余るほどだ。


 どうやら、オレの知らない坂本樹生(さかもといつき)が無機質な病室にいるようだった──。


「三人の関係はわからないけれど、日下部さんが姿を現さなかった理由はわかった気がするよ」


「オレたちに気づかなかったんじゃなく?」


 信号が赤になり、オレたちは足を止めた。


「日下部さんは昔から人の気配を読むのが得意だから、私たちの訪問に気づかないはずがないよ」


「じゃあ、あれだ。坂本と成瀬さんが別れ話をしていたから、顔を出しにくかったんだろうな」


「それが理由だったら、日下部さんが病室から出てくればいい話じゃないか。捨て身の彼にとって、お付き人の傍を離れることは()の河童なんだから」


「だったら、何だって言うんだよ」


「ここだけの話──」


 真之助はグッと顔を寄せた。誰に聞かれるわけもないのに声を潜め、人差し指を唇に当てる。


「日下部さんは、坂本君と成瀬さんの関係を知って欲しくて私たちを呼び出したんだと思う」


「二人の関係って、あいつらが付き合っているってことを?」


 信号が青に変わり、横断歩道を渡る。オレがひとりで喋っているように見えたのだろう。前からやって来た若い女の二人組とすれ違うとき、不躾(ぶしつけ)一瞥(いちべつ)を食らったが、オレは警備員室に連れ込まれたばかりの経験を活かす。イアホンマイクをしているふりをして耳に触れる。電話の相手の声が遠い。そんな素振りに二人組の興味が希薄になったのを確認して、オレは続ける。


「オレたちに知って欲しかったのなら、昨日事件現場で教えてくれてもよかったじゃねえか」


「守護霊はペラペラと他人のプライバシーを漏らしてはいけないんだよ。上手く言えないけど、私には二人が恋人同士というより、もっと特別な繋がりがあるように見えたんだ」


「恋人よりも特別な関係がこの世に存在するかよ」


「だーかーらー、真はお子様だと間違えられるんだよ」


「お子様じゃねえよ、中学生だよ!」 


 二人で喋りながら歩いていたら、いつの間にか喫茶店|Cafe・cachetteカフェ・カシェットの前に辿り着いていた。


 事件の捜査で忙しいのか、三田村さんから折り返しの電話はまだない。オレたちはひとまず作戦会議という名目でお茶をすると決め、入口ドアを開けようとして気がついた。張り紙が貼ってある。


『本日、臨時休業のため、午後から開店いたします』


「なんだよ。せっかく作戦会議をしようと思ったのに当てが外れたな」


「でも、店内に人がいるよ」

 

 まるで水槽を覗く子供のようにドアのガラス部分にピタリと額をくっつける真之助を真似て、店内を覗き見るとカウンターにマスターと客だろうか、見慣れぬ制服の男子高校生がいる。


「営業中かもしれないな」


 ドアを引いてみたが、鍵がかかっているようでビクともしない。


 オレたちは顔を見合わせ、肩を竦める。


 行く当てを失ってしまった。

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