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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第3話 種よ祖父の望みの喜びよ

 今からちょうど三年前の5月24日。じいちゃんとケンカ別れする直前のこと。


 オレが自室でゲームをしながらくつろいでいると、ドアをノックする音がして、画面から顔を上げれば、植木鉢を持ったじいちゃんが立っていた。


「真。ちょっとの間、これを預かってくれないか」


「別に構わないけど。何の植物?」


 オレは寝ころんだまま、お菓子をポリポリ食べていた手を、今度は腹に持っていきボリボリかきながら訊ねたが、じいちゃんは質問には応えずに、「頼んだぞ」と口元に深いシワを寄せて微笑んだだけだった──。




「そう言えばじいちゃんは」


 オレはそのときの記憶の糸を丁寧に手繰り寄せる。


「植木鉢に水をやれだの、肥料はどうしろだの、育て方の()()()について一言も教えてくれなかったんだよな。誰が植木鉢の中に鍵が隠されていると思う? オレは何年も水をやり続けたんだぜ。しかも毎日。笑えるな」


「笑える笑える。真はバカがつくほど単純だからね」 


「うるせえな。バカは余計だっつうの」


 しかし、口で言うほど感情が伴わない「上の空」的な物言いになる。


 というのもオレたちは自室で先ほど仏間から手に入れた戦利品を眺めながら、ああだこうだと首を捻っているところなのだ。


「で。これ、何の種なんだろうな」


「さあ」


 手帳と年賀状と一緒に持ってきてしまった茶封筒の中には、BB弾より大きくてパチンコ玉より小さな丸くて硬い殻を被った種が10粒ほど入っていた。


 これといった特徴もなく、どこにでもありそうな地味な種。


「ググってみる。スマホ貸して」


「ほらよ」

 

 真之助が馴れた手つきでスマホの画面を操作する様子を見ながら、道理でバッテリーの減りが早いわけだと納得する。


 真之助の手捌きはここ数日で会得できるようなものではない。


 恐らく、この男はオレが寝ている間にずいぶんスマホをいじり倒しているようなのだ。


 それはここ数日の間の話ではなく、常習的に、日常的に。


「うーん、出てこないなぁ。検索エンジンを変えてみようか。あー……こっちでもヒットしないや」


「もう幸せの種でいいんじゃねえの。じいちゃんの事件とは関係なさそうだし」


「それ本気で言ってる?」


「お前はじいちゃんからのメッセージ、とか言いたいんだろうけどさ。じいちゃんがオレに種を託したかったのなら、最初から種を蒔いた植木鉢を寄越すだろ。植木鉢に鍵を隠して、仏壇に種を隠してって……わざわざ面倒くさいことするか、フツー?」


「するかもしれないじゃないか」


「刑事ドラマに影響されすぎ」


「真が能天気お花畑なの」


 不満をあらわに唇をへの字に曲げた真之助がスマホを返して寄こした。


「どっちにしても、もっとしっかり調べた方がいいよ。重要な手掛かりかもしれないじゃないか。手帳にいろんな植物の成長記録も書いてあったし……って、さっきから何を読んでいるのさ?」


「桜並木市の歴史だよ、真之助君」


 オレは秀才を気取って、してもないメガネを押し上げるふりをした。


「歴史って……」


 真之助はオレの手元にある本のタイトルに目を落とすと、今度こそ真にはお手上げだよと言わんばかりに肩をすくめた。


「成瀬さんから貸し出してもらった郷土史じゃないか」


「そ。『桜並木市の歴史』だ。たまにはご先祖様の過去に興味を持ってやろうと思ってな」


「ダウト! 大方、孝志君の手帳を見て泣きそうになったから、本を読んでいるふりをして涙を誤魔化しているってところだね。手帳の5月25日の欄に『真の誕生日』と書いてあったから」


「ハッキリ言うんじゃねえよ」


 オレは気恥ずかしさを覆い隠すため、開いているページに目を這わせた。


「なになに。江戸時代、桜並木藩は現在の桜並木市、桃ケ丘町、梅見原市からなる9万石の領土を持ち……。なあ、9万石って何、金持ち?」


「ビンボーだよ。爪に火を点すくらいのド・ビンボー」


 なぜかフランス語っぽい発音で返してくる。


「あっそ。百姓一揆が起こったって書いてあるけど、これも貧乏のせい?」


「江戸時代はどの藩も財政カッツカツだよ。百姓一揆なんてどこの藩にもあるし。そんなことよりも大手柄だよ」


 真之助が本の背表紙を叩いた。


「本の著者を見てごらん。奇妙な一致だ。この人、孝志君に年賀状を送った豊原さんだよ。どこかで聞いた名前だと思った」


 言われるままに著者名を確認すると『豊原敦彦』とある。


 年賀状に手足が生えて逃げ出すわけもないのに、オレは慌てて年賀状を捕らえ差出人と著者名を突き合わせる。


 どちらにも『豊原敦彦』。


 同姓同名だろうか?


 そんな疑問が立ち上がったが、同姓同名などそうそういるものじゃないと、もうひとりの自分が否定する。


「この著者がじいちゃんと24日に会っていたってことなのか? 一体、じいちゃんとどういう関係なんだ」


「年賀状をやり取りするくらいだから、親しかったんじゃないかな」


「この豊原って人が、日下部(くさかべ)さんが言った元警察官って可能性は?」


「可能性はあると思う。確かめる方法はなきにしもあらずだけど」


 「訪ねてみる?」と真之助は年賀状にある豊原さんの住所と電話番号を指さしたが、オレはどうにも気乗りしなかった。


 もうオレたち素人で対処できるキャパを優に超えているように感じたのだ。ことはひとつひとつ慎重に移さなくてはいけない。


「手帳も見つかったことだし、朝飯を食ってから三田村さん(プロ)に相談しよう。腹が減っては何とやらだからな」


 しかしその後、三田村さんに電話を入れたが忙しいのか繋がらず、オレたちは先に日下部さんがいる市立病院へ行くことにした。


 もともと日下部さんと約束していたこともあったが、真之助は五島翔(ごとうかける)という男が本当に実在するのか確認する必要があると口酸っぱく言った。騙されているかもしれないとも。


 昔の因縁のせいか、守護霊という仕事柄か、優男の見た目と似合わず疑い深いやつだなあと呆れる。


 家を出てすぐにオレは振り返った。庭先で風に揺れる色取り取りの小花たちが可憐なダンスを披露している。


 今はばあちゃんが引き継いでいるが、元々はじいちゃんの趣味だったイングリッシュガーデン。


 仏壇の引き出しに手帳と共に入っていた謎の種は、この花たちの種子なのだろうか。


 この種がどんな役目を担っているのか、このときのオレには知る由もなかった。 

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