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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第2話 じいちゃんの手帳

 じいちゃん、手帳を見せてもらうぜ。


 オレは心の中で一度断りを入れてから、ざっと5月のページに目を通した。と、早速心臓が早鐘を打ち始める。見知った名前を見つけたのだ。




 5月22日──五島(ごとう)と会う。




「五島(かける)のことだ!」


 視線を翌日に横滑りさせる。




 5月23日──五島が事故を起こしたことを知る。若い女性を撥ねてしまったようだ。わたしが彼に会ったせいだろうか。自責の念に堪えない。




「これは恐らく、莉帆(りほ)ちゃんの事故の件だね。孝志(たかし)君は責任を感じていたんだ」


「で、5月24日だけど──豊原に会う……とあるぜ。豊原って名前に聞き覚えがあるか?」


「どこかで聞いた記憶があるんだけど、思い出せないなあ。千代に聞いてみよう」


 無責任にも軽いノリで言ってくれる真之助に、オレはズバッと指摘する。


「それができたら苦労しないって。ばあちゃんに聞いたら最後、根掘り葉掘り聞かれて、手帳を取り上げられるに決まっているだろうが」


 そんなことになってしまったら、三田村さんに手帳を渡せず、事件は迷宮入りになってしまうかもしれない。空気を読め、そして少しは考えろ、マイペース侍め。


「ふうん。あ──」


 またもや真之助はのんびりとした姿勢を崩さぬまま、引き出しをあさり、「奥の方に年賀状の束があるんだけど、その中から豊原さんを探せってメッセージじゃないの?」


 陳腐なミステリー小説のようなことを言ってオレをイラつかせる。


「はあ? そんな上手い話があってたまるかよ」


 物事はそう簡単に上手く運ばない。若干17歳の若いオレであるが、これまで何事も順風満帆に進んだ覚えなど一度もなく、むしろ、常に逆パターンを邁進している。悲しいかな、今後の人生もこんな風に歩んでいくのだろうと、すっかり馴染んでしまった不幸体質に不貞腐れながら、年賀状を確認すると──震えた。


「おい。と、と、と、豊原がいたぞ!!」


 50枚近くある年賀状の束の一番上。豊原という送り主の名前に、オレは思わず両拳を高く掲げた。


 ありがとう、神様、仏様、守護霊様!


 ついさっきまで真之助を腹の底でディスり、人生を悲観していたことなど最早忘却の彼方だ。


 オレは真之助とこの喜びを共有しようとして、グータッチのポーズを取った。が、興奮の熱は潮が引くように一気に冷めていった。


「何をおかしなことをしているの?」


 いつの間にかスウェット姿のばあちゃんが出入り口に立っていたのだ。


「ず、ず、ず、ずいふん、お早いお帰りで」


「その言い方だと、わたしがまるで帰ってきてはいけなかったみたいね」


 ばあちゃんの凪いだ湖面のような瞳にメラメラと燃え盛る怒りの炎を見つけてしまい、オレはダラダラと冷や汗を垂れ流すばかりだ。


「まさか! おばあ様はいつからそこにいらっしゃったんですか」


「『上手い話があってたまるか』のところから。真はわたしに聞かれたら何かマズいことでもあるの?」


「いいえ、何もございません!」


「真が手に持っているものは何?」


 ばあちゃんの視線が年賀状の束にロックオンされる。


「まさかとは思うけれど、あなた年賀状の個人情報を集めて、『オレオレ詐欺』の名簿を作ろうとしているんじゃないでしょうね?」


「どうして、そういうネガティブな発想になるんだよ、ばあちゃん!」


「だって。あなた、日頃から何か信用してもらえるようなことしているつもり?」


 痛いところを突かれた。


 ばあちゃんの辛辣な言葉に思春期の繊細な心が完膚なきまでに砕かれ、ぐうの音も出ない。


 このままでは説教タイムへ向かう特急列車に強制乗車させられてしまうと悟ったオレはこの場から逃亡することを決めた。


「逃げるぞ!」


 真之助に退却の号令を出し、手帳と年賀状、そして突発的に引き出しの中にあった茶封筒を鷲掴みにして、仏間を飛び出した。


 追手のようにすぐさま怒号が背中に降りかかるかと思いきや、


「わたしもあなたに構っている暇がないのよ。これから町内会のリクレーションで浅草へ日帰り旅行するの」


 意外にもばあちゃんは歌うように軽い調子で言うから、オレは思わず振り返る。


「何? キツネにつままれたような顔をして。ちゃんとお土産は買ってくるわよ。真もどこかへ出かける予定なんでしょ。だったら、さっさとお行きなさい」


 遊び飽きた男にそっけない態度を示すイイ女の如く、ばあちゃんは手のひらをヒラヒラとやり、ピシャリと襖を閉めてしまった。


 いつもは陰湿なほどネチネチと説教を垂れるばあちゃんに、こうもあっさりと手放されてしまうと、説教を免れた幸福感よりも敗北感が勝るのはなぜだろう。


 ばあちゃん、お願いだから説教してくれよ! と心にもないことを懇願しそうになった自分に唖然とする。


 これではまるで、眼中にない異性から告白されOKしたというのに、速攻で振られる同情を誘うマンの心境ではないか。


「寂しがり屋さん」


「お前はもう黙っておけよ!」


 真之助に茶化されたオレは込み上げる恥ずかしさを隠しながら階段を駆け上がった。

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