怖がりの小鳥
通信魔具を受け取ったイルイラは、各員から安全そうな道の情報を聞きながら、護衛役の女性剣士とともに城へと入っていた。
『“姉上にグラウリースの加護あらんことを!”』
「合図だ!」
通信魔具から聞こえたセルミナの合図に、テラスの少し下にある部屋で隠れていたイルイラが、窓から外へ飛び立つ。
「……ッ!!」
落ちてくるミリオーラに速度を合わせ、鉤爪でしっかりと身体を掴む。
「成功だよ! ちゃんと掴めた! やったよセルミナ様!」
起動したままの通信魔具に叫び、周囲に視線を巡らせる。外から兵士たちの歓声が聞こえてくるが、結界の外へは出れない。かといって、樹林騎士団を全員倒しているわけでもないので、変なところには降りることはできない。イルイラは大きく旋回し、飛び立った部屋へと舞い戻る。
「けってきた! 姫さんはこっずへ!」
「うん!」
扉をロープと家具で塞いだ部屋のなか、毛布の上に気絶したミリオーラを寝かせる。イルイラは女性騎士に世話を任せ、通信魔具で助けを呼ぶ。
「…………はぁ」
皇姫を助けることができた。重圧から解放され、短く息を吐く。
「あ……」
視線を落とすと、カチリと床を叩いた鉤爪の先端が、赤く汚れていることに気付く。直前のことを考えれば、なんの汚れかすぐにわかる。
「ミリオーラ様の……血……」
毛布に寝かされたミリオーラの服にも、小さな赤い染みができている。落下する大のおとなを掴み、浮くほどに引っ張り上げれば、鉤爪が身体に食い込んでしまう。セルミナは鎧のおかげで無傷だったが、ミリオーラは鎧など着けていない。それでも服が破れずに済んでいるのは、ミリオーラの着ている服の質の高さ故だろう。
イルイラも予想はしていた。布で汚れを拭い綺麗にはしていたが、試験などできない一発勝負であり、命には代えられない。布などを巻き、そのせいで滑っては目も当てられない。セルミナにもそのことは伝えてある。
「ん……」
「姫さん! 気付いたのけ!?」
視線を上げると、ミリオーラが頭を押さえながら上半身を起き上がらせていた。頭が痛むのは、落下の最中に引っ張られ、頭に一気に血が上ったためだろう。
「ここは……っ!」
今度は頭の鈍い痛みではなく、腹部の鋭い痛みに顔を歪ませる。手を当てた先には赤い染み。イルイラが鉤爪で掴んだ場所。
「ミリオーラ様、ごめんなさい。アタシが強く掴んじゃったから……」
「そうですか……あなたが、わたしを助けてくれたのですね」
立ち上がったミリオーラが、イルイラに近づく。皇姫に怪我をさせてしまった。その事実に叱られるのかと思い、イルイラは体を強張らせる。だが、ミリオーラは優しく微笑み、イルイラの翼を取る。
「ありがとう。この痛みは、わたしが生きている証です」
そして、感謝を述べた。
「セルミナは、ウソを言っていなかった。わたしは、あなたのおかげで生きている。そうですね?」
「……うん」
「だから、そんな悲しい顔をしないで」
「…………うん」
それでも、人を傷つけたことに変わりはない。それがたとえ皇姫であっても、亜人であっても。
「優しい子ね。あなたはセルミナの……」
「友達……になれたらいいなーって思ってます」
「そう。なら、セルミナをよろしくね。あの子は、ああ見えて寂しがりやなの。なのに、強がる子だから」
「うん。知ってます」
そして、いい人だということも知っている。だからイルイラも友達になりたいと思った。
「あ……」
部屋にある窓の外で、光がテラスから落ちてくる。きっと、ナニかが起きている。イルイラはミリオーラの手を離し、窓へと近づいた。
「お名前、聞いてもいいかしら」
「イルイラ、です」
「わたしはミリオーラ。セルミナのこと、よろしくね」
「うん!」
通信魔具をミリオーラに渡すと、イルイラは窓枠に足をかける。テラスには、友達も、友達になりたい人もいる。いかなくてはならない。
「ジルカ! セルミナ様! あと、ついでにダリアスも……今いくよッ!」
空に身を投げ、大きく翼を広げた。




