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コボルトと宝石

「姉に贈るためのアクセサリーを探している」


 メイランに正体がバレたためか、途中で買った度の入っていない眼鏡をかけたリフィアが、どこにいきたいのかというジルカの質問に答える。


 街案内とはいっても観光ではなく、探し物の類。理由としては至極まっとうなモノであり、そういった依頼を受けることも間々ある。犯罪に関係しそうな依頼であれば衛兵の詰所に直行するところだが、その心配はなくなった。


「使用人に探させるとか、そういったモノを扱ってる行商人を呼んだほうが、早いんじゃないか?」

「そうかもしれないが、私は自分で探したいんだ」


 家族への贈りモノは、自分の足で探し目で確かめたいというリフィア。気持ちはわかる……が、街の小さな便利屋に貴族が依頼をした意味が、ジルカにはわからない。


「依頼されれば案内はするけど……どうして便利屋ウチに依頼を? 有名でもなんでもないし、貴族様に知り合いなんていないけど」

「部下に聞いたのだ。街に詳しい人物がいるとな。女に手が早いのが玉にキズだと言ってはいたが……」

「それは俺じゃなくて、ダリアスしゃちょうのほうだよ。アンタ美人だから、速攻で口説きにかかられただろうね」


 リフィアの容姿は控えめに言っても整っている。年上好きのダリアスでも、放ってはおかないだろう。


「ムラサキはしないのか?」

「キミは太陽のように美しく輝いている! 目は奪われ、身は焼かれたように熱い! どうかこの傷を、キミの手で癒してはくれないだろうか……これでいいか?」

「三流の歌劇オペラを観たほうがマシだな。私を太陽というからには、自分を月や星に例えてみせるくらいはしてみせろ。あとは癒してくれではなく、照らしてくれや焼き尽くしてくれ、のほうがいいと思うぞ。恥ずかしさ言葉に残っているのもマイナスだ」

「……さようですか」


 慣れないことをしたうえダメな点をも指摘され、言わなければよかったと後悔するばかりのジルカだった。ダリアスの真似をしてみたのだが、こんなセリフを大真面目な顔で言えるダリアスを尊敬しそうになってしまう。


「さて、ムラサキ。どこに案内してもらえるのか教えてくれるか」

「自分からさっさと歩いてったくせに……このままいけば、宝石やアクセサリーなんかを置いてる店があるから、とりあえず向かうつもりだけど」


 有名なブランドものなどを扱う高級店が、街の一画にある。依頼があれば別だが、普段は立ち入ることもない区画でもある。


「ふむ。それはダメだ」

「なんで」

「依頼をした意味がないからだ。そんなところは一人でもゆけるからな」

「……なるほど」


 ここでようやく、ジルカは依頼の意味を理解した。隣にいる女性は、ブランドものなど見飽きている。それは送り先である姉も同じだろう。そういったものとは別のモノを、リフィアは探している。それこそ、貴族などが知らないような店の品を。


「なら、大手の店は外そう」

「なるべく派手過ぎない、素朴なモノがいい。だからといって、質が悪くては困るぞ」

「わかってるよ。近くの露店を覗きにいってみよう。見習いのアクセサリー職人なんかが店を出してることもあるから」


 青田買いではないが、露店に将来の一流職人がいることを期待し、二人は露店を覗きに向かった――のだが……


「なんなのだアヤツらは!」


 しつこく商品を進めてくる商人から逃れ、二人は大通りへと戻っていた。


「さすが商人ってとこだ。リフィアを見て、金の臭いを感じ取ったんだな」

「む。私のせいだとでもいうのか?」

「間違いじゃないだろ」


 中身は真逆だが、イルイラを案内した三日前と同じような展開に、ジルカも苦笑する。


 今回の原因は、もちろんリフィア。一緒に歩いてジルカもわかったが、リフィアの所作は凛と美しい。あわせて、服も要因の一つだろう。


 白いシャツに藍色のスカートといった、どこにでもありそうな普通の服装をしている。しかし、よく見れば襟などの縁には目立たないが細かい意匠が施されており、そこらの娘が着ているような服ではないことがわかる。服に詳しい商人であれば、ただの服ではないとわかる者もいるだろう。そして、そんな商人が露店にいた。


 あれはどこどこの服だ。高い服だ。貴族の娘か豪商の娘か。どちらでもいいが金持ちだ、と。そんなリフィアに、商人は群がってきた。そんな商人たちに迫られ、リフィアも目的の品を手に入れることはできていない。


「ゆっくりと見ることもできなかったぞ。どうしてくれる、ムラサキ」

「そうだな……あんまり貴族様を連れていきたい場所じゃないけど、当てはある」

「当てがあるなら連れてゆけ。このままでは帰れん」

「なら移動しよう。街の反対側までいくから、準備して馬車に乗ろう」


 ジルカたちは一旦、金の鶏亭まで引き返すと、部屋から剣を引っ張り出し、リフィアとともに馬車の乗り合い所まで移動する。金の鶏亭は城から伸びる南側の大通りにあり、目的地は街の北側にあるので、歩いてゆくには少々遠い。


「お、おお……意外と揺れるのだな」

「わざわざ一番安い馬車なんて選ぶから」

「こういう機会でもなければ、乗ることなどないからな。なにごとも経験だ……おおお」


 揺れるたびにリフィアはどこか楽しげに声を上げる。しばらくして馬車は北側の大通りの停留所へと到着した。


「こっちだ」


 停留所から少し歩き、二人は歓楽街のなかへと入ってゆく。ジルカもやってくるのは四日ぶりのこと。この辺りまでくると配達の範囲外のため、イルイラを案内していない。そうでなくても、案内をする気のなかった場所でもある。


「……初めて入った。なかなか治安が悪そうな場所だ」

「ロンティルトでも、一番治安がよくない場所だろうね」


 奥に進めば進むほど、開いている店が少なくなってゆく。今の時間、歓楽街ここは夜と同じ。そして、奥へ進むほど闇は深くなる。踏み込み過ぎれば、昼夜関係なく飲み込まれるだろう。


「そこまで奥にいくつもりはないけど、一応用心もしてるし」

「剣を用意するほどの用心とはな」

「だから連れていきたくないって言っただろ。まぁ、いくのは表層ギリギリの場所だから、出てもスリや追い剥ぎくらいだろう。それ以上のことをするバカはいないさ」


 闇には闇のルールがある。やりすぎればルールによって消されてしまう。歓楽街の住民は、そのことを知っている。剣はいざというときのために用意したにすぎない。


「……それに、スリや追い剥ぎ程度にアンタをどうこうできるとは思ってないし」

「なんだ、まだなにかあるのか」

「いーや、別に」


 横を歩くリフィアを見る。背筋を伸ばし、芯が入っているように歩き方に歪みがない。服のモデルなどもそういった歩き方をするが、リフィアが戦える人間だと思った理由は別にある。


 ジルカとメイラン、二人の背後に立ち声をかけて驚かせた。すぐ背後に立っていたというのに、気配を感じ取れなかった。気配を感じないほど存在感が希薄というわけではない。一度認識してしまえば、お世辞ではなく太陽のように感じてしまう。そんな相手が背後に立って、わからないほどジルカも鈍感ではない。


(“なにかしら”の心得はあるよな)


 それも戦うための技術が。訓練の賜物か実戦経験もあるのか、そこまではわからない。だが姿勢の正しさも合いまり、剣を構える姿もさまになることだろう。勘ではあるが、そこまで間違っていないと考えている。


「っと、ここだ」


 閉まっている店のなかに、一つだけOpenの看板が扉にかかった小さな店がある。軋みをあげる扉を開け店に入ると、外とは違う暗さが二人を包む。


「お邪魔するよー」


 仄かな魔石のランプによって薄暗く照らされている店内を、リフィアは警戒しつつ進んでゆく。


「どうしたの~便利屋だ~いらっしゃい~こんなところに~」


 店の奥のカウンターに、小さな少女が座っていた。小柄なコボルトの少女で、背はジルカの胸より下だが、コボルトではこれでもれっきとした成人の女性にあたる。


 コボルトは、亜人のなかでも鉱石の扱いに長けた種族として知られている。同じく鉱石の扱いに長けた亜人としてドワーフがいるが、ドワーフは鎧や武器などを得意としており、逆にコボルトはもっと細かいもの。特に装飾品などを作るのが得意とされている。


「客を連れてきたんだよ。贈り物を探してるんだってさ。リフィア、彼女はカーラ=ガーラ。歓楽街ここでアクセサリー店を開いてるんだ」

「ありがと~見てってね~ちゃんと~見たの綺麗な姫さま~初めてだ~連れてきたの~」

「う、うむ……ムラサキ、なんというか不思議な喋り方をする御仁だな。意味が……」


 妙に間延びした声と文法などないに等しい喋り方をするカーラに、リフィアはどことなく気圧されている。相手の言っていることがわからないというのは、それだけで重圧に感じるもの。


「わからないか? 慣れだよ、慣れ。コツは単語を聞いて文章に組み替えること。『便利屋が客を連れてくるのは初めてだ、ありがとう。お姫様みたいに綺麗ですね』。こんなとこじゃないかな。ここにくる客は、大抵がオヒメサマだけどね」

「そうか……まあ、それはいいのだが……」


 店の壁やガラス棚には、ランプの光を弾くように、アクセサリーが陳列されている。指輪はネックレス、髪飾りにピアス。その商品のどれもが、ドがつくほど派手な装飾がなされていた。


「さすがコボルトといったところか、思っていたよりも質がいいことには驚く。だが、これは……」


 ダメだ、と視線で伝える。最後まで口に出さなかったのは、カーラに気を使ってのこと。素朴とはほど遠く、ともすれば下品に見えるほど。このなかに望みの品があるとは、到底思えない。


「違う違う。こっちに並んでるのは歓楽街の住民用だよ。カーラ、前に見せてくれたのあったよね。練習で作ってるってやつ」

「お姫さまならいいか~売り物じゃないんだけどね~おかしいと思った~あるけど~」


 二人はカーラに案内され、カウンターの奥にある工房へと通される。工房には未加工の宝石の原石から作りかけのアクセサリーまで、処狭しと並んでいる。


「よいしょ~~」


 カーラは棚の奥から皮の張られた箱を取り出すと、スペースを空けた机の上に置く。年季の入った箱を開けば、なかにはアクセサリーが綺麗に収められていた。


「ほう……!」


 そのアクセサリーを見て、リフィアが驚く。目立たないが、手を抜かず細かく装飾が彫られた指輪。大胆な造りながらも品格を漂わせる髪飾り。箱のなかの品はどれも、さきほど見たアクセサリーとは別格。それもそのはずで、店に出している品は夜の仕事用。まずは目立つのが第一であり、客の目を引かねばならない。


「買うの~? 安くはできないの~どれも~」

「ああ、買わせてもらおう。どんな値段だろうとな」

「さすが貴族様。気に入ってくれたみたいでよかったよ」

「だから貴族ではないと……もういい。さて、どれが姉上に似合うか……」


 ――それから二時間近く後。笑顔で店から出るリフィアとは対象に、疲れきった顔のジルカが隣にいた。

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