マイナー初登板
体調不良でマイナー降格してから二週間。ようやく、この日を迎えた。
「今日は六回か七回で投げてもらう」
試合前からコーチに言われ、俺は嬉しく思っていた。
試合は2-2の同点のまま、七回を迎え予定通り登板することになった。
久々のマウンドなので、感触を確かめる。
ストレートを投げ、キャッチャーのミット音を聞いた。調子は悪くない、球は走ってる。
最初のバッターは、五番の左バッター。明らかに一発を狙っている構えだ。
俺は変化球を選択した。キャッチャーにチェンジアップのサインを出し、振りかぶって投げた。
ボールはホームベース手前ですーっと落ち、バッターは空振りをした。
二球目は外角低めのストレートだったが、外れてカウント1-1。
三球目も外角のカーブ。やや高かったが、打ち上げた。ショートがほぼ定位置で取り、1アウト。
続くバッターもレフトフライ、セカンドゴロと打ち取った。
試合は九回に勝ち越し、接戦を物にした。
「もしもし、どうだったの?」
「一回を三者凡退」
「やったー、よかったわね」
俺は雪子のはしゃぐ声に少し照れてしまった。
「久々だったから、どうなることかと思ったけど結果を残せたから」
「それもそうだけど、一番は体よ。大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
俺は電話越しだったが、かなり心配してたことに気がついた。
その後、夏実の話になった。
「そっか、もうバレたのか」
「まあ、時間の問題だと思ってたけどね。それにしても、早かったわ」
話によると、番組を見ていたクラスの男子生徒が気づいたらしい。
「自分の知名度も上がったってことでいいのかな?」
「はい、調子に乗らないの。お願いだから、しっかりしてね」
電話を切り、俺は誓った。一日も早くメジャーの舞台に上がるということを。