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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
7/73

家族

 俺はとにかく落ち着かなかった。他の選手も同様だった。

ただし、三島と倉田は故障もあるということで、現役引退を表明するようだ。

しかし、会見を開くわけではない。あれは一軍で、ずっと活躍した選手だけの特権。

彼らは2軍で暮らしていることも多かったので、新聞に名前が載るくらいだろう。



「ついに俺ら、クビになったな」

 島本も俺と同じようにへこんでいた。

「実はもう分かってたんだ。毎年、どの選手がクビになるか予想してたから、ある程度なら傾向が分かるんだ。

 自分がクビになったときのことも考えて。そしたら、今年は自分が飛ぶだろうって。

 でも、あんなに淡々と言われると辛いな」

 島本は結婚していて、子どもが一人いた。まだ3歳の女の子だ。


「おい、これから、どうする?」

 島本の問いに対して、俺は考えがまとまっていなかった。

「とにかく今は分からない。一人で考えるよ」

 俺は一人で車に向かった。とりあえず、どこかへ出かけて行きたい気分だった。




 ー 別室 ー


「おい、朝田、水川、何があったんだ」

 担任である山下は、二人を別室に呼んで指導していた。

「なんでもありません」

 朝田は素っ気なく答えた。


「なんでもないのに、水川が襟を掴むのか?」

「ただ、遊んでいただけです」

「そんなはずないだろ。水川、理由を話してみなさい」

「ちょっと遊んでいただけです」

 大輔は本当のことを言えなかった。朝田康太の無言の圧力があった。


「本当にそうなのか?」

「はい、そうです」

「分かった。だけど、人の襟を掴む真似はするんじゃない。遊ぶなら、もっと楽しく遊びなさい」

「分かりました」

 先生は部屋を出て行った。


「おい、水川。ふざけた真似しやがって。ただじゃおかないからな」

「そっちが悪いんじゃないか」

「でも、俺は手を出してないからな」

 そう言って、朝田は部屋を出た。大輔は野球選手の息子ということもあり、いじめを受けていた。

 そして、次の日から、さらにエスカレートしていくことになる。



 ー 6年1組 ー


「夏実のお父さん、テレビに出るの?」

「うん。今日から1軍復帰みたい」

 夏実は嬉しそうに話していた。

「よかったじゃん。夏実のパパ、すごいよね。うちのパパなんて、ずっと係長なんだから」

 一番の親友である沙弥香が、とてもいいなという感じで見ている。


「あたし、将来はプロ野球選手と結婚しようかな?」

 そう言うのは、優奈。ちょっと大人っぽい感じの子だ。

「しかも、夏実のママってきれいだし、料理も上手だよね。うらやましいな」

「そんなことないよ。何かあると、すぐガミガミ言ってくるし」

「でも、すごいよね。プロ野球選手の奥さんって」

 そんな話をしていた。しかし、数日後、そんな会話は一切なくなっていくのであった。



 ー 近所のスーパー ー


「この間さ、近所の山田さんったらね」

 スーパーで買い物をしながら、雪子は世間話をしていた。

 というより、主婦の井戸端会議といったほうが正しいかもしれない。


「水川さんとこの旦那さん、素敵よね」

「そうかしら。別に普通の旦那よ」

「いやー、プロ野球選手ってとこがすごいわよ」

 だいたい夫の愚痴大会になると、この話になる。


「でもって、仲も良いしね。お家や車も立派だし」

「そんなことないわよ。まさか旦那がプロ野球選手になるなんて思わなかったから」

「だけど、うらやましいわ。うちの旦那も見習ってほしいわね」


 雪子はそんな風にまわりから思われるのが不思議だった。

 食事にも気を使わなければならないし、数年後はプロ野球選手をやめていることも分かっている。

 そんなわけで、お金のやりくりや噂とかも気にしている。

「華やかな世界だけど、けっこう大変なのよ」と心の中では思っていた。

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