延長12回裏の攻撃(1)
試合は12回裏、大阪タイガースの攻撃。
他球場は終わっていて、ハイライトで結果を流していた。
「札幌ファイターズは、3回に1番・本庄のタイムリーで先制。2番・稲元もタイムリーを打って2点を先行。追いかける仙台フェニックスも、8回に1点を返して、なおも2アウト2塁のチャンス。ファイターズのピッチャーは、セットアッパーの増岡。フォークで空振り三振。最後は久石が締め、ファイターズが開幕白星」
「すごいわ、白井さんも開幕戦に出たのね」
エドモンズを戦力外になり、2回目のトライアウトで合格した白井。先発投手からリリーフ陣に代わったところで出場したようだ。現役続行を決めた3人は、去年は開幕2軍。ほとんど出番がなかった。
「3人が開幕一軍なんて夢のようね」
「環境が変われば活躍するって、このことを言うのね」
雪子も夏実も苦労を知っているだけに嬉しかった。
「さあ、12回裏、タイガースは8番からの攻撃。バッターボックスには、セカンドの関田」
関田は右バッターボックスに入った。
「ピッチャーは、右の萩野に代わりました。昨年は32試合に登板して、防御率が3,31」
今、投球練習を終えたところだった。
「村野さん、タイガースが踏ん張って今日の負けがなくなりました」
「私が指揮していた頃より粘り強くはなっているので、先頭が出ればチャンスですね」
それを聞いて、夏実も言う。
「うん、先頭が出ればチャンスじゃない?まだ葉山さんも残ってるし」
「そうね。代打の切り札がいるのは大きいわ」
そして、チャンスは訪れた。ショートの後方にポトリとボールが落ちて先頭バッターが出塁した。実はこの試合、初めてのことだった。
「さあ、先頭の関田がしぶとくレフト前にヒットを打ちました。そして、代走には翔太が起用されます」
待ってましたとばかりに代走の翔太が一塁へ向かう。
「9番は代走からレフトの守備に入った坂田。早くも送りバントの構えです」
「当然ですね。ここできっちり決めないと」
ピッチャーは、まず牽制。ランナーも分かってたかのように1塁へ戻った。その後、外角にストレートを投げて外し、1ボールとなった。
「そうよね、ここは簡単にストライクを投げないよね」
続く2球目のカーブも、低めに外れてボール。牽制球を挟み、3球目。
「クイックで投げてきた」
ボールは外角高めへ。バッターは見逃さず、ボールを1塁線へ転がした。かなり勢いがあったがランナーの足が速く、ファーストは諦めてベースを踏んだ。
「坂田、見事に送りバント成功。1アウト2塁とチャンスが広がりました」
球場は完全に押せ押せムードになっていた。1番・吉田がバッターボックスへ向かう。すると相手キャッチャーは立ち上がった。アウトを取りやすくするために敬遠するようだ。すると球場からは、ものすごいブーイングが飛んでいた。
「この球場、アウェーだと本当にすごいよね」
あまりのブーイングに夏実も雪子も、ビビっていた。テレビでもこれだけ伝わるくらいだから、実際はもっとすごいのだろう。しかし、次の瞬間、今度は歓声に変わるのである。