戦力外通告
ー 3年2組 ー
「エドモンズ、また負けたな」
朝から何人かの男子が教室でプロ野球について話していた。
「それにしても、昨日もひどい試合だったな。とにかく打てない」
「ピッチャーもかなり打たれてたよ。こりゃ、最下位決定だな」
ガラガラガラ
「おっ、来たぞ。おい、水川。お前のとこ、本当に弱いな」
「僕には関係ないよ」
「そんなことねーだろ。また負けたんだよ、エドモンズ」
クラスは静まり返り、全員が大輔と男子とのやり取りに注目した。
「しかも、お前の父ちゃん2軍なんだろ。最下位のチームで、2軍ってヤバくないか?」
「おい、このままじゃ、お前の父ちゃんクビじゃね?」
「そんなこと言うな。父さんの悪口言うな」
「まっ、どちらにしろ、プロ選手は長くないからな」
「うるさい」
大輔は、康太の襟を掴んだ。教室中が大騒ぎだ。
「おい、水川、離せよ。やり過ぎだ」
「どうしました?」
やっと、ここで先生が入ってきた。
「なんでもありません」
「本当にそうか。水川、朝田。あとで話を聞く」
俺はあまり寝付けなかった。
昨日は、2軍とはいえ、プロ初セーブをあげた。
しかし、9時過ぎに球団事務所からの着信。メッセージを聞くと・・・
「明日の10時に、球団事務所に来てください」
そう入っていたので、車を飛ばした。
9:50に、ギリギリ到着した。
挨拶を済ませ、事務所の奥の部屋に進むよう指示された。
着くと、すでに7人の選手が来ていた。
捕手 白井 一彰 (28) 右右 8試合 打率.142
内野手 杉本 吉宏 (31) 右左 14試合 打率.181 1打点
内野手 倉田 智弘 (32) 右右 一軍出場なし
外野手 三島 祐一郎(29) 右右 一軍出場なし
外野手 渡辺 仁 (26) 左左 16試合 打率.230
投手 森田 剛典 (30) 右右 5試合 防御率 9.00
投手 安田 翔 (27) 左左 1試合 防御率 4.50
部屋の中は、とてもピリピリしていた。息さえするのも苦しいくらいに感じた。
球団の幹部に座るように指示され、高級感が漂うソファに座らせられた。
3分前には、島本もやってきた。俺はまさか来るなんて思わなかった。
そして、約束の10時になった。
球団のオーナーがやってきたので、幹部から全員立つよう指示された。
あいさつを済ませると、オーナーが言葉を発した。
「非常に残念な話だが、来季は君たちとは契約しない」
いきなりの一言に俺は驚いた。少しだけ覚悟したが、頭が真っ白になった。
「今までごくろうさまでした。来季は君たちの分まで頑張ります」
その後、荷物の片付けの期日やマスコミの対応に関する注意などがあった。
先輩にも聞いたことがあったが、淡々と説明されて話が終わった。
時間にして、わずか5分程度だった。俺は来シーズン、無職になってしまった。