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最後の挑戦  作者: 石井桃太郎
戦力外通告
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試合を終えて

「おつかれさまー」

 チームメイト、みんなで言いあっていた。

 俺は初めてのセーブだったので、すごく気分がよかった。


「島本、水川、ナイスピッチングだった」

 試合後のミーティングを終え、監督とコーチに褒められた。

「この状態なら、1軍昇格もあるな。気を引き締めてけ」

 俺は肩のケアとウエイトトレーニングなどをして、練習を切り上げた。

 ユニフォームを脱ぎ、荷物をまとめて家に帰った。



「ただいまー」

 家に帰ると、雪子が夕食の支度をしていた。

 大輔もサッカークラブの練習がなかったみたいで、おかえりと言ってくれた。

 娘の夏実も、今日は塾がお休みだったようだ。

「今日は、カレーだからね」

 雪子が得意のカレーを作っていた。いいにおいがしてきた。


「いただきまーす」

 家族揃って、夕食を食べ始めた。

最近は、夏実が塾に行ってるので、全員で食べることが少なくなっていた。

だけど、うちでは珍しくない光景だ。2〜3年前は、もっと少なかった。

なぜなら、俺が1軍にいたので、遠征に行ったりすると1週間留守なんてこともしばしばあった。

家族でゆっくり食べられるのは、オフ以外ではなかなか少ない。



「今日は、パパ、セーブをあげたんだ」

 俺は今日の出来事を話し始めた。

「えっ、そうなの!もしかして、プロ初セーブじゃない」

 雪子がうれしそうに話していた。

「そうなんだよ。俺も驚いたよ。意外だよな?」

「あっ、そう」

 むすっと答えたのは、娘の夏実だった。


「何、その口の利き方は?」

 雪子がすぐに夏実を注意した。

「だって、2軍の話でしょ?パパは1軍で投げる選手なんだから、抑えて当たり前よ」

「何、言ってるの?2軍だって、バカにしちゃいけないわ」

「本当なら、今日は東京ドームにいたのよ」

 夏実がテレビを指して言った。テレビには、巨人戦が中継されていた。



 俺はムッとしたので、言った。

「俺は明日から1軍に復帰するぞ。だから、テレビに出ると思う」

「えっ、そうなの?パパ」

「あなた、本当?」

「あー、そうさ。今日の成績は、1回無失点。しかも、三振を2つ取ったんだ」

「そっか。じゃあ、パパが最下位脱出の救世主になるね!」

「パパ、ごめん。明日から頑張ってね」

 家族は喜んでいた。しかし、大輔は少し元気がなかった。


「ごちそうさま」

「どうしたの?あんまり食べてないじゃない!」

 雪子がそう言うと、大輔は部屋に行ってしまった。

「なんか元気がないわね」

「どうしたんだろう?」

ちょっと大輔の様子が気になったが、夕食を終えた。



 11時頃、一人でシャワーを浴びていた。

あー、なんてことを言ってしまったのだろう。つい見栄をはってしまったのを後悔した。

なぜなら、うちはスポーツ新聞を買っている。だから、すぐにバレてしまうのだ。

俺はタオルで体を拭き終えると部屋に向かった。


 部屋に戻ると携帯が光っているので、早速見ると着信があった。

番号は“球団事務所”からであった。しかし、夜も遅いので寝ることにした。

しばらく横になっていると、雪子も隣のベッドで横になっていた。


「ねえ、あなた」

「なんだよー、今日は無理」

「何、バカなこと言ってんのよ。あんた、さっきの嘘でしょ?」

「えっ、どうして?」

 雪子からの先制攻撃で、思わずビクッとした。


「ほら、やっぱりね。すぐムキになったから・・・何年、付き合ってると思うの?」

「16年経つよな」

「普通に答えなくて言いわよ」

 しっかりものの雪子には、すぐに見抜かれた。


「せっかくセーブしたのに、今日の嘘はセーブできなかったか」

「それでもジョークのつもり。だけど、好投したのはホントよね?」

「あー、それは本当だよ。試合の結果は、すべて真実だよ」

「よかったわー、それなら、1軍も近いわね」

 雪子も安心していた。この時期は、けっこう不安を抱くことも多いからだ。

特にベテラン選手や2軍にいる選手は、いつ言われるかビクビクしなければならない。

それでも、最近は、ある程度分かるから少しだけマシかもしれないけど。



「明日もいつもどおり。登板はあるか分からない」

「展開によっては、あるんじゃない?それで1軍昇格!」

「ならいいけどな」

「何よ、それ」

「まっ、明日になってみないと分からないよ」

「あら、そう。じゃあ、おやすみね」

 このとき、俺はもしかしたらと考えていた。球団事務所からの電話。

とても気になってしまい、あまり寝付けなかった。

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