娘のクラス
学校では、卒業式の練習が始まっていた。
と同時に男子の間では、WBCのことが話題になっていた。
スポーツ新聞を見ながらワイワイやっていた。
「イチロー大丈夫かな?全然打ってない」
「ダルビッシュは、すげえ」
こういった会話が飛び交っていた。
「ねえ、あんたたち、騒ぎすぎよ。夏実のこと考えなさいよ」
注意したのは、優奈。夏実とは仲がいい。
「そうだよな。ちょっと反省するよ」
男子たちは、はしゃぎ過ぎたので少し反省していた。
「じゃあ、別のところを見ようぜ」
そう言って、他のページにしようと新聞をめくった。
「おい、見ろよ」
「なんだよ、勇太。そんなに興奮して」
「ここだよ、この記事」
勇太は指でさしながら言った。
「おい、水川」
「なーに?」
夏実は反応した。今はWBCよりも、父親の登板のことで頭がいっぱいだった。
「お前の父さん、辞めたんじゃなかったのか?」
記事を指しながら、勇太は言った。
「えっ、父さんのこと記事になってるの?」
夏実は新聞を見た。トライアウトが終わったあと、全然スポーツ紙を見ていない。
ひそかに渡米し、招待選手としてキャンプに参加。
6試合連続無失点と結果を残し、開幕メジャーの可能性が出てきた。
3月23日 午後6時(日本時間24日 午前11時)の試合に登板することが予定されている。
この試合の後、メンバーを決めるとスターズ首脳陣は名言した。
「父さんの登板日、卒業式と重なっちゃったか」
夏実は知らなくて残念に思った。
「そうじゃなくて、何で隠してたんだよ」
同級生の勇太が突っ込む。
「えっ。それには、いろいろ訳があってね…」
「お前の父さんだろ。もし、ダメだったらとか考えてたんだろ?」
夏実は沈黙した。たしかに、その通りである。
「厳しいけどさ、信じてやれよ。お前の父さん“プロ野球選手”なんだから」
その言葉を聞いて、教室が静まり返っていた。
「だったら、卒業式の後とか何かできないかな?」
「体育館に大型スクリーン持ってきて、中継とかできないか?」
「坂本に頼めばいけるんじゃないか?1回、テレビ出たんだし」
そんな感じで応援しようと動き出した。
夏実はクラスメイトに感謝していた。