1次カット
その後も、オープン戦が行われた。
2試合に登板し、なんとか無失点。結果を残すことができた。
チームも形になりつつあり、お互いの名前と顔も一致してきた。
同僚の選手に聞かれる。
「歳はいくつ?」
「もうすぐ35歳になるよ」
「見た目若いな」
「ははは。ありがとう」
片言でなんとか会話することができた。投手陣では、2番目に高いことも分かった。
このチームの最年長は、かつて先発として180勝をあげたライトル(38)だ。
1年間のブランクがあるが、新チームができることで現役復帰した選手だ。
そんなライトルと話す機会が巡ってきた。
「もう先発には、こだわってない。投げれるなら、どこでもいい」
2年前に先発失格の烙印を押され、球団から解雇通告。そのまま辞めたと聞いた。
「あの頃は、子どもたちと一緒に過ごしたかったというのもあった。でも、子どもたちに投げてほしいと言われて。そんなときにオファーをもらったから、喜んで引き受けたよ。地元だしね」
それを聞いて、俺も共感した。
今、自分が挑戦しているのも、家族のおかげ。感謝している。
でも、チームに残れるか分からない。やっぱり、不安。
そして、今日は1次カットの発表日だ。
「残念ながら、ここに名前が載っている者は・・・」
そう言って、首脳陣が名前の載ったリストを貼った。
アルファベットで書かれているので、すぐには分からなかった。
でも、肩を落として落胆している者、膝まづいた者、ボーっと立っている者。
周りの反応を見て分かった。
「よし、残った」
俺は思わず握りこぶしを作った。
すぐに連絡しよう。俺は携帯電話を取り出し、邪魔にならないように連絡することにした。
「もしもし、雪子」
「もしもし、あなた?今、寝てたんだけど・・・」
俺は時計を見た。時差を計算して言った。
「ごめん。夜の2時過ぎか?」
「で、どうだったの?」
俺は一呼吸してから言った。
「大丈夫。まだ残ってる」
「よかったわ~」
雪子の安心した声を聞いた。
「何言ってるんだよ。まだ先は長いよ」
「でも、開幕まで1ヶ月切ったじゃない。この先は、どうなの?」
「“2次カット”が待ってる」
「そうよね。毎日がトライアウトの連続だもんね。こっちも疲れちゃうわ」
俺も少し疲れを感じていた。登板するときは、毎回が試験のようなもの。
いつもより、長い時間話した。
子どもたちのこと、こっちの生活のこと。
とにかく頑張るしかない!俺は次に向けて進んだ。