初心に戻って
2月10日。
俺はスーツケースに荷物を入れ、家を出た。
これが本当に最後の挑戦。まず、初心に帰って、新人の気持ちで行こうと思っていた。
夏実は私立中学受験し、見事、第一希望に合格することができた。
あれだけ自分のことで心配させてしまったのに、よく頑張ったと思う。
大輔も元気にやっているようだ。
もちろん、妻の雪子が頑張って、子どもたちを見てくれている。
そんなことを考えていると、すぐにアメリカに着いた。
新規チームということで、希望すれば球団の僚で過ごせることになっていた。
俺はもちろん希望して僚に住むことになった。
この歳で?と思うかもしれないけど、いつでも連絡取れるし家族にとって一番安心である。
「さあ、車に乗って」
山城さんの声で、俺は車に乗った。
「いよいよ、始まるな」
「はい」
「どうだ、調子は?」
「バッチリです。去年から休んでなかったので、思い切って休みました」
「そうだな。その方がいい。それから・・・」
少し沈黙が流れた。
「スカウティングした結果、かなりの人数が集まってしまった。俺も予想外だったよ。他のスカウトも頑張ってやってるみたいで、中南米だけでなく、アジアやヨーロッパにも手を出したから。全部で40人いるな」
「そんなにいるんですか?」
「まあ、メジャーでは普通のこと。それでだんだんと減っていくから。まず、オープン戦には出場できるだろうから、そこで結果を出さないとな。だけど、メジャー枠が先発投手を中心に8人ほど確定してしまったからなあ」
「それで残りは何人くらいですか?」
俺は一番気になることを聞いた。
「だいたい、3~4人ってとこだな」
「そんなに少ないんですか?」
やはりメジャーも大変。トライアウトよりも厳しい戦いかもしれない。
「まあ、慌てるなって。シーズン途中昇格もあるし。できたばかりのチームだから、入れ替えも激しいだろうよ」
新聞や話を聞いて分かってはいたけど、やはり厳しい戦いになりそうだ。
しかし、幸いにもリリーフ投手の枠は余っていた。
やはり、アメリカでも先発投手の方が重宝されているようだ。
「よし、着いたぞ」
車を降りて、球団関係者に挨拶をした。こんな気持ちは、新人のとき以来だった。
部屋に入り、荷物を整理した。いよいよ、アメリカでの挑戦が始まる。




