マイナー契約
「山城さん、球団事務所はどれくらいで着くんですか?」
「ああ、1時間もしないうちに着くよ」
「そうですか」
「向こうに着いたら、オーナーに挨拶することになってるから。緊張しなくて大丈夫だから」
俺はまるで新人のときのような気分になった。
40分後、球団事務所に着いた。
「じゃあ、荷物をまとめて」
俺は山城さんといっしょに中へ入っていった。わりときれいだった。
「よし、ここがオーナー室だ」
山城がドアをノックして入った。
「good job」
中は高級そうな机があり、そこに座っているのは・・・
さっきボールを受けてもらってキャッチャーではないか。
「まさか」
「そのまさかだよ。実はここのオーナーは元選手なんだ。投手は入団前に必ずボールを取るんだ」
山城がニヤリと笑いながら言った。これがメジャー流のサプライズか。
「お疲れ様。まだまだ伸びますよ」
「えっ、日本語?」
「あー、日本でも少しプレーしたんだよ」
「そうなんです」
オーナーも笑っていた。この光景に俺は唖然とした。
「まっ、そういうわけ。水川、早く判子を押せ」
「はい」
俺は判子を取り出し、所定の位置に押した。
「これでお前もこのチームの一員だ。じゃあ、今日のところは、これでおしまい」
すると、オーナーが立ち上がった。
「うちのチームの最初のメンバーとして、頑張ってください」
俺は握手をして部屋を出た。
ついに、アメリカでプレーすることになった。
この日は、球団の新しくできた寮で一泊した。
次の日、日本に帰国。2月中旬から始まるキャンプに備えることになった。